トランスポゾンP因子の挿入により第3染色体に劣性突然変異を誘発し、Dsor1優性突然変異Su1を導入した際の表現型の変化(抑圧または増強)を、致死性と成虫外部形態に着目して検索した。約2000系統の検索の中で解析の先行しているHP126ホモ接合体は、多くが蛹期までに致死となり、一部が粗複眼や翅脈欠損を見せる成虫になるが、Dsor1^<Su1>導入により、それらが部分的に回復する。また、Elp(EGFレセプター優性変異)の複眼異常を抑圧することから、HP126遺伝子産物はレセプターからMAPKKの間で機能すると予測される。今年度の成果として、P因子DNAを分子プローブとして、HP126遺伝子座周辺のゲノムDNA領域クローン化を終えた他、リポーター遺伝子lacZを持つP因子、P-1acWとのP因子置換体を確立しつつある。 第2染色体の既知突然変異体、1aceは、null alleleのホモ接合体が致死となり、その遺伝子機能は生存に必須と考えられる。また、hypomorph(1ace^<HG34>/1ace^<53/5>)に認められる、剛毛消失、粗複眼、翅の周辺部欠損などは、Dsor1^<Su1>導入によって部分的に抑圧され、1ace遺伝子産物の機能が、MAPKシグナリング機能と関連していることを示唆している。今年度は、P因子挿入点より約10bpの距離をおいて先頭部分が一致する一つのcDNAの構造解析を完了した。指令される蛋白質は、597アミノ酸からなり、セラミド等スフィンゴ脂質の生合成に関与する酵素と予想された。実際に培地中に添加したスフィンゴ脂質により、1ace^<HG34>/1ace^<53/5>の致死性は救済される傾向が認められた。最近、セラミドの活性化する蛋白質リン酸化酵素、CAPKがRaf-1を介してMAPKカスケードを活性化することが報告されたので、上記のDsor1^<Su1>による抑圧は、突然変異体1aceにおけるセラミド産生量低下によるD-raf活性化レベルの低下を救済するものと解釈されるため、現在生化学及び遺伝学的にその検証を進めている。
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