マウス中胚葉は、受精6.5日目頃に外胚葉から剥離した細胞が原条へ移動する過程で形成される。T遺伝子は原条の細胞で特異的に発現した後に脊索と尾芽に発現が限定される遺伝子である。申請者らは、中胚葉の分化とその形質維持に不可欠なT遺伝子を中胚葉細胞のマーカー遺伝子として捉え、その発現制御機構を胎児性癌細胞P19を用いて解析した。P19細胞をジメチルスルホキシド存在下で懸濁培養するとT遺伝子の発現が一過的に誘導されることから、5'上流域の欠失変異体にCAT遺伝子を連結したプラスミドを作製して発現制御領域を検索したところ、-299/-192と-192〜-128の2カ所にプロモーター活性を示す領域の存在が確認できた。これらの領域のDNAをプローブに用いてゲルシフト解析を行うと、それぞれの領域に結合するタンパク質が存在し、DNAとの結合活性の消長はT遺伝子の発現と同調していた。2つの領域のうち-192〜-128についてフットプリント解析を行ったところ、結合部位は-158〜-143の14bpであった。この部位に変異を導入するとプロモーター活性が消失することから、この配列が不可欠な制御エレメントとしてT遺伝子の発現に機能していることがわかった。また、その部位にはGATA因子の認識配列が含まれており、実際DMSO存在下で2日間懸濁培養したP19細胞には少なくともGATA2、3および4の発現が認められた。これらの結果から、GATA因子(群)が背腹軸の決定と連動して腹側中胚葉で何らかの機能をしていることが想定された。
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