高等生物における中枢神経系の形成機構の解明を目的とし、ラット胎生期中枢神経系、特に大脳皮質において発達段階に伴い発現の変化する遺伝子の取得を試みた。 方法は胎生期において大脳皮質を形成する過程であるpreplate形成期とcortical plate形成期から大脳皮質組織を取得し、各々の組織で発現している遺伝子をdifferential display法を用いて比較した。 実験結果として、preplate形成期(胎生12日目)とcortical plate形成期(胎生18日目)の胎児より得たmRNAのフィンガープリントを比較、胎生12日目にのみ発現するバンドより86クローンのDNAを抽出し、時期特異的な発現を示す遺伝子候補とした。 得られたクローンの実際の組織内での発現を確認するためcRNA probeを用いたin situ hybridization法を施行した。それら発現様式を検討した結果、preplate形成期大脳皮質組織においてのみ強く発現する遺伝子、すなわち、時期特異性および部位特異性を併せてもって発現する遺伝子そのものは得られなかったものの、胎生期中枢神経系において比較的得られた組織においてのみ発現する遺伝子を6クローン得た。 これら6クローンのうち胎生期の脳室周囲にのみ陽性反応を示すもの、すなわちneuroepitheliumもしくはその近傍の細胞に特異的に発現する遺伝子、および、preplate形成期終脳の一部に強く発現しその後発現が減弱していく様な遺伝子を、今後解析を行なう候補として選択した。これら2クローンについては、シークエンス解析を行ない、現在全長を得るべくライブラリースクリーニングを実施している。現時点で判明している遺伝子配列からは既知の遺伝子との相同性は確認されていない。
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