(目的)脳への酸素供給が不足すると高エネルギーリン酸化合物は減少するが、解糖系の促進やクレアチンリン酸からの供給などによって大きな減少を避ける仕組がある。低酸素でATPが保たれることは説明できるが、ATPが低下する前に神経活動が低下することは説明できない。低酸素の時の脳の防御機構を検討するために、Hbを用いないで正確に酸素濃度だけを制御できる灌流脳モデルを用いて、呼吸鎖の末端酵素チトクロームオキシダーゼの酸化還元状態と脳の神経活動の関係を調べた。(方法)灌流液としてフルオロカーボンを用いて、ラット脳を灌流した。チトクロームオキシダーゼの酸化還元状態に依存した可視近赤外領域の吸収スペクトルの変化を四波長分光光度計で測定した。(結果と考察)低酸素による自発脳波の変化はチトクロームオキシダーゼの還元より敏感であり、自発脳波の抑制は酸化的燐酸化の影響をあまり受けていないと考えられた。好気条件でてんかんによってチトクロームオキシダーゼのヘムは10%程度還元されたが、これは酸素不足というよりミトコンドリアの呼吸が促進したために還元されたことによるものだった。てんかんでは自発脳波に比べてより低酸素で発作波が観察され、発作波の変化はヘムの酸化還元挙動と似ていた。てんかん後のヘムの酸化還元挙動はてんかんを起こしたときの酸素濃度によって異なった。厳しい低酸素でてんかんを起こした時のヘムの酸化還元挙動は好気嫌気を繰り返したときのものと同様だった。(まとめ)自発脳波はチトクロームオキシダーゼの酸化還元と関係なく抑制されるが、抑制性ニューロンのGABAレセプターをブロックするとチトクロームオキシダーゼの酸化還元に強く依存するようになる。
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