DiI及びHRPを用い、エンゼルフィッシュ仔魚における松果体ニューロンの脳内投射パターンを調べたところ、間脳及び中脳被蓋に多数の投射が観察された。また、標識された線維の多くにバリコシティー様の構造が見られたことから、松果体ニューロンはこの領域で光情報を出力している可能性が示唆された。特に注目すべき点は、中脳被蓋の内側縦束核と思われる領域に多数の線維が投射していたという結果である。内側縦束核ニューロンは、軸索を内側縦束経由で脊髄へと送っており、遊泳運動の発現に深く関わっていると考えられており、減光情報が、ここでニューロンを乗り換えて脊髄へと伝えられている可能性がある。また、特に孵化後1〜3日目の仔魚においては、松果体ニューロンは延随へもかなりの数の線維を投射しており、孵化後間もない仔魚は減光刺激に対して特に大きな反応を示すことから、これらが、減光刺激によって誘発される運動の発現に関わっている可能性が高い。 松果体ニューロンの活動と、脳内各所の神経活動の細胞外同時記録を行ったところ、減光刺激に対する松果体ニューロンの反応に続いて若干の遅延を持った神経活動が、内側縦束付近で導出された。上記の形態学的観察結果とあわせて考えると、エンゼルフィッシュ仔魚における松果体からの出力が、内側縦束核・内側縦束を経て脊髄内の神経回路を賦活していることが考えられる。ただし、孵化後5日以上経過し、減光刺激に対して顕著な反応を示さなくなった仔魚においても、松果体から内側縦束核付近への投射や、減光に対応した神経活動が内側縦束付近で導出されることから、上述の経路が、松果体に端を発する経路固有のものなのか、あるいは徐々に発達してきた側眼からの経路も同様の経路をたどるのかという点について、今後詳しく調べていく必要がある。
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