研究概要 |
ボロールは,シクロペンタジエピルカチオンと等電子構造であり,4π電子系の反芳香族性化合物として興味深い化合物である.ペンタフェニルボロールが1969年にEischらにより合成されたが,これまでそのX線結晶構造の報告例はなかった. 本研究では,ボロールのホウ素上の置換基として,フェニル基の他,トリル基,トリメチルシリルフェニル基,フルオロフェニル基をもつ一連の2,3,4,5-テトラフェニル-1-アリールボロール誘導体を合成した.不活性ガス雰囲気下で,反応溶液から直接再結晶を行うことで,ポロール誘導体の単結晶を得ることができ,これらのX線結晶構造解析に成功した.本研究を遂行中に,BraunschweigらもペンタフェニルボロールのX線結晶構造解析に成功し,ボロール骨格における結合交代が基底一重項状態として理論的に予測された結合交代より小さいことを報告した.彼らは,これを結晶構造で見られる分子間でのホウ素とフェニル基との相互作用のためであると報告している.これに対して,一連の2,3,4,5-テトラフェニル-1-アリールボロールの結晶構造では,ボロール骨格には比較的大きな結合交代が見られ,ペンタフェニルボロールの場合とは異なって,4π反芳香族性を示す基底一重項状態として理論計算により最適化された構造と良い一致を示すことを明らかにした. さらに,ペンタフェニル体および2,3,4,5-テトラフェニル-1-トリメチルシリルフェニル-ボロール体について,カリウムを用いて二電子還元し,これらのジアニオン塩の単離と結晶構造解析にも成功した.いずれの結晶構造でも,カリウムカチオンに対してボロール誘導体が分子間で配位して一次元につながった構造をとることがわかり,本研究で合成した一連のボロール誘導体がマルチデッカー型錯体の配位子として有用であることを示すことができた.
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