研究概要 |
本研究の成果として,主筆1編,共著2編が公表された.この他,4編が投稿・査読中,3編を投稿準備中であり成果の発表を行った.特に顕著な成果として,主筆の論文(Jimenez-Espejo et al., 2008)で,最終氷期以降の西地中海における気候変化に関し,以下の点で海洋循環系の変化が海洋生物生産性に深く関係することを指摘した. (1)最終氷期から現在にいたる温暖化が海洋環境変化に影響を与える.特に,海水準の上昇が地中海の海洋循環の様子を変化させる.(2)温暖化に対する西地中海の水塊の感受性が,特に表層の塩分濃度に表れる.(3)西地中海の海洋生物生産性は,温暖期と寒冷期では大きくその様相を変化させ,特に寒冷な時期に最も高くなる.(4)結果を数値モデリングの研究者と議論し深めることで,縁海(西地中海)において,温暖化に伴う海水準の変化が,海洋循環に影響する.(5)海洋堆積物コアの研究結果を,陸上湖沼の結果(南イベリア半島)と比較し,過去四千年間に,温暖化に伴う湿潤な気候変動が陸域海域で起こっていた.この他,現在投稿準備中の論文では,オホーツク海においては,海水準が与える影響にくわえて,大気循環が海洋循環に与える影響が非常に大きいことを明らかにした.現在の観測データと過去の気候復元データの統合という点では,海洋堆積物の記録と湖沼堆積物の記録の比較検討という点で重要な貢献を行った.とりわけ,South Iberian Mediterranean Moisture Archive(SIMMA)に対し,オリジナルな降水量指標を提唱するに至った.また,ローマ時代の文明の盛衰に関連した,気候シグナル(Pb/Al,CuやNiなどの重金属の濃集など)を見出し,古海洋学と考古学の接点を見出した点でも功績が認められる.
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