研究課題
特別研究員奨励費
平成20年度の前半は、前年度に引き続き、イリノイ大学アーバナーシャンペーン校ベックマン研究所において、デニス・C・パーク教授の下、機能的磁気共鳴画像法を用いた実験を行った。平成20年度の後半は、日本に帰国し、行動実験によって表情認識の年齢差の心理学的機序を検討した。Ruffman et al.(2008)は先行研究のメタ分析を行い、(1)ほとんどの情動(喜び、驚き、恐怖、怒り、悲しみ)について若齢者の方が高齢者よりも表情認識のパフォーマンスが高い一方、(2)嫌悪についてだけは高齢者の方が若齢者よりも表情認識のパフォーマンスが高いという結果を報告している。しかし、表情認識の年齢差の背景機序についてはまだほとんどわかっていない。そこで、高齢者、若齢者それぞれ36名を対象とした行動実験を実施し、表情認識の年齢差と認知能力、情動経験、パーソナリティーの年齢差の関連を分析することで表情認識の年齢差の心理学的機序の解明を試みた。分析の結果、喜び、驚き、恐怖、悲しみの表情認識の年齢差は、認知能力の年齢差で説明できることがわかった。つまり、加齢にともなう認知能力の低下が、これらの情動の表情認識の低下の背景にあると考えられる。一方、怒り、嫌悪の表情認識の年齢差は、認知能力、情動経験、パーソナリティーの年齢差では説明できないことがわかった。つまり、これらの情動の表情認識の年齢差の背景には、一般的な心理学的変数の年齢差では説明できない特別な機序があることが示唆される。同時に、嫌悪表情の認識の年齢差は、怒り表情の認識の年齢差で説明できることもわかった。つまり、Suzuki et al.(2007,Biological Psychology)で提唱した「若齢者は怒り表情に敏感すぎるため、嫌悪表情の認識に劣る」という仮説が支持された。
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Journal of the Neurological Sciences 280
ページ: 35-39