特別研究員としての研究期間の一年目にあたる平成19年度には、研究実施計画に基づき、日本語の助詞「ハ」の適切な使用条件に関する意味論・語用論的研究に取り組んだ。このテーマは日本語学分野においては古典的ともいえるものであるが、未解明の部分も多く、日本語教育などの実践的な場面からも、理論的分析の進展が期待されている。 年度の前半には、この研究テーマに関連する先行研究や理論的枠組みを理解し、批判的に検討することに多くの時間をあてた。夏以降には、先行研究の知見を総合しつつ、独創性を持つ分析を構築すべく、論文の執筆を開始した。 具体的なアイデアは、次のようにまとめられる。(i)助詞「ハ」の使用条件を適切に記述するためには、それが文の主語とともに用いられる場合と、それ以外を区別することが必要である。(ii)「ハ」が主語とともに用いられる場合は、「ハ」の機能は「(主語が)焦点(またはその一部)でないことを示すこと」であり、一方、「ハ」が直接目的語などとともに用いられる場合には、「ハ」の機能は「主題を示すこと」である。これらのアイデアに基づき、10月には、『意味論研究会』(於:弘前学院大学)で発表を行い、参加者から意見・コメントを得た。 現在、提案された分析の経験的妥当性を示すために、コーパスを利用したデータ収集を行っている。また、今後は、コーパスに加え、言語心理学的実験も、データ収集のために利用する予定である。現時点での研究成果は、6月に開催される国際的ワークショップ"LENLS2008"などで発表する予定である。その後は、さらにデータ収集を進め、また、発表の場面で得られた意見・コメントを内容に反映させた上で、研究成果を学術誌に発表することを目標とする。
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