本研究では、酸化亜鉛(ZnO)系光機能材料および次世代発光デバイスの創製を念頭に、不純物添加ZnO薄膜の作製とキャリア制御に取り組む。これまでに、添加元素の探索とデバイス作製の両方に有利なスパッタリング併用プラズマ化学気相堆積(CVD)装置を開発し、遷移金属元素添加ZnO薄膜の作製に成功している。本年度は、本装置を用いて無添加ZnO結晶の高品質化と希土類元素添加ZnO薄膜の作製に取り組み、以下の成果を得た。 [1]サファイア基板上にc軸配向した無添加ZnO結晶が得られ、低温フォトルミネッセンス(PL)測定では自由励起子遷移が主体的なバンド端発光特性が観測された。 [2]有機Er原料を用いたCVD法により、Er添加ZnO薄膜を作製することに成功した。成膜後に熱処理を施すとEr^<3+>イオンの4f殻内遷移に起因する1.5μm帯PLが得られ、その強度が900℃程度の酸素雰囲気中熱処理によって最大になることを見出した。 [3]Er添加ZnO薄膜の1.5μm帯PLに関して、測定温度、励起波長および励起強度依存性を詳細に調査した。ZnO母体中の電子-正孔再結合を介してEr^<3+>イオンが励起される「間接励起」と、Er^<3+>イオン中の4f電子を直接励起する「直接励起」とを比較して、1.5μm帯発光を得るための励起効率は前者が優れていることを明らかにした。 [4]ZnOのプラズマCVD成長中にEu_2O_3ターゲットのスパッタリングを生じさせてEu添加ZnO薄膜を作製し、as-grownの試料からEu^<3+>イオンの4f殻内遷移に起因する600-700nmの赤色発光を得ることに成功した。 上記の結果は、本研究で開発した装置を用いて作製したEr添加およびEu添加ZnO薄膜が高性能ZnO系発光材料のベースとなり得る可能性を示しており、ZnO系赤外・可視域発光デバイス創出への寄与が見込まれる。
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