研究概要 |
申請者の研究目的である「アリストテレスにおける動物の行動と人間の行為の異同に着目することで,人間に固有な倫理の特徴を分析し,自発性・思考能力・選択・責任・教育・徳・実践的推論・必然性といった倫理学上重要な諸概念とそれらの相互関係明確にすること」について,20年度は,研究計画の遂行に必要と判断された「倫理教育(paideia)」のあり方を考察すべく,倫理・道徳と社会の関係について現代の状況を考察した.これは,19年度の研究成果を基盤としながら,アリストテレスにおける倫理と社会・政治の関係の意義を明らかにすべく取り組んだものである.昨年度同様補助金により必要な文献を揃え,昨年度,現代日本における裁判員制度(司法への市民参加)とコンセンサス会議(科学技術への市民参加)を手掛かりに現代日本の道徳教育制度のあり方を考察した「The Possibility of Civic Virtue in present-day Japan」を発表したが,今年度はそれを改訂し,英語論文「An Inquiry into the Relationship between Public Participation and Moral Education in Contemporary Japan:Who decides your way of life?」として投稿し,掲載された.また,脳科学・神経科学と社会の関係を道徳の脳科学研究を手掛かりにして学会発表を二つ行い,その成果の一部として,道徳教育の今後のあり方とそれを巡る議論を考察した論文「モラル・エンハンスメント(道徳能力の増強)は脳神経倫理学の議題となるか?-ニューロエシックスと脳科学ガバナンス-」を,また道徳教育の一側面を描いた論文「モラル・エンハンスメントはなぜ不穏に響くのか」を発表した. これらの成果はいずれも,徳育・道徳教育を巡る成果である.徳育・道徳教育の意味と課題を,アリストテレスが論じた文脈を踏まえつつ,現代日本における現実的な問題として捉え返した点に意義と重要性かある.これにより,申請者の研究目的は,現代への射程を入れながらアリストテレスにおける「倫理教育」の特徴を巡る問題として焦点化された.また,これにより,本研究の意義をより明確にすることができた.
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