研究課題
特別研究員奨励費
本年度は、超高真空の蒸着システムを用いて横方向の直径が100-200nm、膜厚が9原子層程度のPbナノアイランド構造を作製し、走査トンネル顕微鏡(STM)で昨年度に観察に成功したアイランド中の渦糸状態を、STM探針を用いて操作する実験を行った。これまでに渦糸の微小な超伝導体への侵入・排除の際には表面エネルギーバリア(Bean-Livingstonバリア)によって渦糸侵入・排除の磁場にヒステリシスを伴うことが知られており、我々が作製したPbアイランドにおいてもその様子を観測することができる。この表面バリアが渦糸の侵入を阻害していることを考慮すると、ヒステリシス中の渦糸侵入直前の磁場でのマイスナー状態は準安定状態にあると考えられる。そこで、筆者はSTM探針による電流注入により、熱力学的に安定な渦糸状態へ転移させることが可能ではないかと予測し、実験的にそれを実証した。さらに渦糸励起のための瞬間的な電流注入時間や電流量、探針の場所依存性を詳細に調べ、励起には一定の電流量と時間を必要とすること、外側に電流注入をした方が効果的に渦糸状態に励起できることを見出した。そして、時間に依存したGinzburg-Landau方程式の下で理論的にシミュレートした結果と実験結果を比較した。その結果、STM探針からの電流が臨界電流密度を超えることで探針直下に常伝導領域を形成し、表面バリアを低減させることにより、渦糸励起が生じていることを明らかにした。この研究により精密に渦糸を制御することが可能になり、例えば渦糸励起の際にマイクロ波を組み合わせることで、酸化膜を用いない理想的な量子ビットの作製が可能になると期待される。
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