研究課題
特別研究員奨励費
(i)シロイヌナズナ属における自家和合性の進化生物の適応進化のモデル系として、ゲノム情報の蓄積されたシロイヌナズナ属を対象に、自殖性の起源を探る研究をチューリヒ大・清水健太郎博士と共同で行っている。本研究では特に、自家不和合で主に他家受粉を行うハクサンハタザオから、どのような遺伝子がどのような突然変異を起こすことによって自家和合性・自殖性のシロイヌナズナが起源したのかを探っている。自家不和合性はオス側の遺伝子とメス側の遺伝子の特異的相互作用からなるシステムであり、自家花粉が柱頭に付いたときにはこの作用によって花粉管の伸長が阻害される。シロイヌナズナにおいては、そのうちのオス側の遺伝子に機能欠失型の突然変異があり、その突然変異が広く種内で共有されていた。その一方、メス側は壊れていない系統もいくつか存在することがわかり、オス側の変異が自家不和合性を崩壊させ、シロイヌナズナを自家和合性に導いたことが考えられた。この知見は、塩基配列のデータだけではなく、種間交配・形質転換実験によっても裏付けられた。加えて、ゲノムワイドな多型解析から、自家和合性に導いた突然変異を含むゲノム領域に過去に正の自然選択が働いた可能性が示唆された。これらの知見は、自家和合性のオス側変異が有利になりうるという過去の理論的研究を実証的に支持する結果である。(ii)ゲンノショウコの花色変異へ働く自然選択の地理的変異植物と植食者間の生物間相互作用の動態は、種内の地域個体群間ですら大きな変異があることが知られており、両者の共進化過程を解き明かす糸口として注目されている。ゲンノショウコには、その花色に関して赤または白花をつけるという顕著な遺伝的多型が知られている。また、トゲトゲクロサルゾウムシ(以下ゾウムシ)はゲンノショウコをはじめとするフウロソウ属植物の胚珠に産卵し、幼虫が種子内部を食害することが知られている。本研究では、食害者が植物の種内多型に及ぼす影響と植物の種内多型が食害者に及ぼす影響を解明するために、花色変異の地理的分布とゾウムシによる食害頻度を調査し、ゾウムシ・ゲンノショウコそれぞれの分子系統地理学解析を行っている。3年間の調査の結果、ゾウムシの花色選好性には大きな年変動,地域的変動があることが明らかになった。自然選択圧の時空間的な変動が、ゲンノショウコの花色の多型の維持に寄与している可能性がある。現在、実験集団でゲンノショウコの交配実験を行っている。今後花色の遺伝的背景が明らかになれば、より詳細な花色とゾウムシの食性の進化の歴史が明らかになることが期待される。
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Molecular Plant-Microbe Interactions 23
ページ: 497-509
Molecular Ecology 17
ページ: 704-714
Nature (印刷中)