研究課題
特別研究員奨励費
平成21年度は、3年間の研究実施機関の3年目にあたり、1年目・2年目で行った鉛系ペロブスカイト酸化物を「不規則性を有する強誘電体」として捉え、一般化を行うために、不規則性を有する強誘電体の1つであるフッ化カリウムを添加したチタン酸バリウム(Ba_<088>K_<0.12>TiO_<2.88>F_<0.12>:KF-BT/0.12)の相転移機構をブリルアン散乱測定より調べた。その結果、次の2点が明らかになった。1.不規則性がある場合における、音響フォノンと分極緩和の関係音響フォノンからの光散乱(ブリルアン散乱)を温度変化させて調べ、相転移温度付近に現れるフォノンの異常を観測した。不規則性が存在するKF-BT/0.12やリラクサー強誘電体の場合、通常の強誘電体と比べて、広い温度領域で相転移に伴う音響フォノンの異常が現れることが分かった。そして、不規則な部分であるポーラーナノリージョン内の低い対称性を考慮し、揺動散逸定理を基に、音響フォノンの温度依存性から緩和時間を計算する式を導いた。2.リラクサー強誘電体とKF-BT/0.12(鉛を含まない不規則性を有する強誘電体)の違い本実験結果の中で観られた顕著な差は、緩和時間と音響フォノンの温度依存性である。このKF-BT/0.12で観られた緩和時間と音響フォノンの温度依存性は、「強誘電性相転移の秩序変数である分極の揺らぎが相転移温度に向かって発散していく」という従来の知見に矛盾しない。一方、リラクサー強誘電体の場合は、「分極揺らぎの成長が相転移を迎える前に抑制きれ始めて、相転移温度で分極揺らぎが発散しきらない」ということが分かった。これは、「不規則性を形成する要因がペロブスカイト構造のAサイトであるかBサイトかということに大きく関係する」と昨年度に行った放射光粉末回折実験から予想している。
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