近年の経済地理学における最重要概念である、「市場への近接性」に注目し、これが長期の経済成長に与える効果について実証的に分析するというのが本研究の目的でした。その目的のため大きく分けて二つのプロジェクトに取り組みました。 まず、日本の第二次世界大戦敗戦による植民地の分離独立に注目した研究を行いました。植民地の分離独立はある意味で統合された市場の分断とみなすことができます。つまり第二次世界大戦前後のデータを用い計量経済学的な比較分析をおこなうことで、市場への近接性が長期の経済成長に有意に正の影響を持つことを示しました。この研究は国際的に高く評価され、国際査読誌であるJournal of the Japanese and International Economies誌に掲載が決まっています。 これに並行して、戦後日本の長期の人口移動データを用いて、市場への近接性が人口移動および賃金格差に与える影響についての分析も行いました。そのなかでまず、このような研究のベースとなる推定可能な人口移動モデルについて見直す作業を行いました。従来の人口移動モデルでは人口移動時の移動費用をうまく扱えておらず、推定の際にバイアスが生じている可能性を指摘しました。それをふまえて新たに推定可能な人口移動モデルを提示し、これが有効であることを示しました。この研究は東京大学田渕隆俊先生との共同研究として東京大学のCIRJEディスカッションペーパーに発表され、同時に現在国際査読誌の査読中となっています。この新たなモデルは今後人口移動と市場への近接性との関係を分析する際に非常に有効な基礎の推定モデルとなることが期待されます。
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