本研究は、アメリカ映画におけるポスト古典映画の諸相を明らかにするべく、近年積極的に行われてきたポスト古典論争の再検討を、とりわけインディペンデント映画研究、ニューメディア論との比較検討から重点的に行った。 インディペンデント映画研究においては、とりわけ、ポスト古典初期ともいえる60年代後半からそのキャリアをスタートさせたデイヴィッド・リンチを主たる研究対象とし、彼の作品の製作・配給・上映形態がいかなる変化を遂げてきたのかを検証した。そこで明らかになったのは、深夜上映からブロックバスター、テレビドラマ、ウェブサイトへと、変則的ながらもゆるやか移行を見せるリンチの製作態度が、ポスト古典論を展開する理論家が提示してきた現代アメリカ映画の諸特徴と連動するのみならず、90年代以降のニューメディア論とも共振しているということである。 また、テレビドラマのパイロット版を映画として公開したり、ウェブサイトでの公開用に撮影したデジタル映像を映画館でフィルム上映したりする近年のリンチの変則的な製作態度を、オールド・メディアとしての映画からインターネットをはじめとするニューメディアへの移行という直線的なメディア史の記述方法に疑問を投げかける重要な事例として検討した。これらの結果判明したことは、現代はむしろ、ヘンリー・ジェンキンスが説くように、新旧のメディア双方が乗り入れ、奇妙な同居を見せる時代として理解されるべきであり、このように理解したとき、リンチの映画および60年代以降のポスト古典映画は旧来の古典映画とニューメディアを段階的に繋ぐ領域として、より広義にはポストモダンへの移行を記述するメディアとして、意義深い視点を提供するであろうということである。研究成果は日本映画学会および日本アメリカ学会において順次発表される予定である。
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