研究概要 |
初年度から開発してきた超音波システムが完成し、液体金属の超音波キャビテーションを標的にした原子核実験を実施することが可能となった。液体及び気体Li標的に対して30-70keVの重陽子ビームを照射し、標的中で生起する^6Li(d,α)^4He及びD(d,p)T反応を測定することで、液体及び気体中での核反応率の違いを実測した。 実験を行ったあらゆる条件下で超音波による^6Li(d,α)^4He反応の増大は観測されなかった。裸の原子核状態から液体状態へ変化させた時の反応の増大分は重心系のエネルギー差分で543±38eVと決定した。これは絶縁体標的の報告値よりも大きいが、液体LiがLi^<1+>とe^-に電離していることによって生じるデバイ遮蔽を考慮すれば妥当である。固体標的で報告された大きな遮蔽効果は観測されなかった為、大きな反応増大は固体状態に特有であると考えられる。 これに対して、特定の条件下では超音波ON状態でD(d,p)T反応が数十%程度増大することが判明した。しかし、反応増大は標的の表面状態に著しく依存し、試行毎のばらつきが非常に大きい。そこで、比較的安定な条件を探索し、その条件下で増大率のエネルギー依存性を測定することで反応機構を推定した。この結果、反応の増大は遮蔽効果ではなく、気泡内の高温が原因であると判明した。表面での気泡の存在割合は約65%であり、気泡内温度は590±54eV(約680万度)である。 本研究により、これまで分光によってのみ測定されてきた気泡内温度を世界で初めて原子核反応により決定した。気泡内でLi温度は低く、D温度のみが高いと予測されるが、この温度差と気泡内温度は分子動力学的な数値計算結果と定量的に一致している。本研究結果から、最適な条件が決定できれば、超音波キャビテーションによって核融合反応を生起させることが可能であると示唆される。
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