研究概要 |
生体内の呼吸鎖では,ATP合成に必要なプロトン勾配を形成するため,シトクロムc(Cyt c)からシトクロムc酸化酵素(CcO)への電子伝達が必要である.過去の研究から,Cyt cからCcOへの電子伝達には,LysやGluなどの帯電したアミノ酸残基だけでなく,Ileなどの非極性のアミノ酸残基が関与し,部位特異的な複合体をしていることが明らかとなった.このように,極性残基による静電相互作用および非極性残基による疎水性相互作用がCytc-CcO複合体の形成に,重要な役割を担っているものと推定されるものの,複合体の形成の駆動力になっている相互作用は未だ明らかとなっていない.そこで,本研究では,複合体形成を熱力学的に検討するため,エンタルピー等の熱力学パラメーターの変化を求めることが可能なITCを用い,Cyt c-CcO複合体形成の駆動力になっている相互作用の検討を試みた.ITC測定を用いてCyt c-CcO複合体形成に伴うエンタルピー変化を求めたところ,吸熱反応であることを示す正の値をとり,Cyt cとCcOが1:1で複合体を形成することが明らかとなった.さらに,このエンタルピー変化からエントロピー変化を検討したところ,Cyt c-CcO複合体の形成には脱水和のエントロピー変化が主に寄与していることが明らかとなった.この結果は,Cyt c-CcO複合体形成の主な駆動力が,当初想定されていた極性残基による静電相互作用ではなく,非極性残基による疎水性相互作用に伴う脱水和であることを示すものであると考えられる.
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