ATP合成酵素(FoF_1)は、H^+の電気化学的ポテンシャル差と共役してADPと無機リン酸からATPを合成する酵素である。また、ATPの分解に伴いH^+を輸送することができる。このように、本酵素のFo部分(ab_2c_<10>)におけるH^+輸送とF_1部分(α_3β_3γδε)におけるATP合成・分解は互いに共役している。この共役には、α_3β_3δab_2サブユニットに対してγεc_<10>サブユニットが回転することが必須であることが知られている。そこで、本研究ではFoF_1のATP分解に伴うサブユニット複合体の回転を介した共役機構を明らかにすることを目的とした。 H^+輸送路であるFo部分(ab_2c_<10>)が存在しているFoF_1では、ATP合成・分解の触媒反応を行うF_1部分のみの回転とは異なる性質を持つ可能性がある。そこで、FoF_1の回転の性質を明らかにするため、直径60nmの金粒子をプローブとして回転を観察する系を構築した。昨年度までに、可溶化したFoF_1のF_1αサブユニットをガラス表面に固定、Fo cサブユニットに金粒子を結合させ、ATP分解に伴い毎秒約200回転することを観察した。これに引き続き、今年度は、Fo cサブユニットをガラス表面に固定し、F_1βサブユニットに金粒子を結合させ回転を観察した。回転速度は、毎秒約150回転であった。α_3β_3γ複合体を用いた実験では、γサブユニットに結合した金粒子は毎秒約400回転しており、FoF_1の回転がα_3β_3γ複合体の回転よりも遅いことを明らかにした。このことから、δ、εサブユニット、Fo(ab_2c_<10>)が回転速度に影響を与えている可能性が考えられる。
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