研究概要 |
平成19年度の活動ではシース降下電圧の挙動を実験的に推定するための実験装置(5ch平行平板MagnetoPlasmaDynamic推進機)を設計・作成し,この装置を用いて「電極間隔接近法」」によりマクロな観点からプラズマシース降下電圧を18Vと決定したが,平成20年度においては,投稿論文の執筆に向けてこれらの実験が行われた背景について検証するため,以下のような実験研究を行った. 電極間隔を狭めた際のプラズマ状態が大きく変化していないことを確認すべく,ラングミュアプローブにてプラズマ診断を行った.なお,プローブによるブロッキング効果を考慮した補正式を用いた.この時,電子温度は電極間隔が4mmから2mmに変化した場合でも,2.4-2.7eVの範囲であり,ほとんど変化はなかった,一方で,電子密度に関しては7×10 20/cm3から3×10 21/cm3とやや違いが見られた.しかしながら,電子密度のこの差がシースに及ぼす影響は比較的小さい.電子温度が大きく違わないことにより,プラズマ状態の一貫性が保障された. 損耗具合とデータの関連性についても検証を行った.辺や先端部が丸くなってきたものでは,設計値よりも大きな電極間隔を採用することで一貫性が保たれることが分かった. 陰極材料がシース降下電圧に与える影響について,ThO2-W,La2O3-W,Y2O3-Wの3種類の電極を用いて比較を行った.各材料の仕事関数については,ある程度信頼出来る文献が入手され,自らこれを取得するための試験装置構築(紫外線ランプ,高速放射温度計)に300万程度を要することから,文献値を参照するものとした. これらの電極材料は既に同軸型電磁加速アークジェットにおいて大きな放電電圧の違いを生むことが申請者らの研究によって明らかとかっているが,シース降下電圧としてはそれほどの大きな違いは見られなかった. このことから,陰極材料が放電電圧を低下せしめる原因は,陰極降下電圧領域にあるのではなく,むしろ,バルクプラズマ部の放電電圧そのものに対してであることが推定された.各陰極材料の損耗量がプラズマ作動ガスに対して占める割合は重量換算で5%以下であるが,ごく僅かな希土類金属蒸気の混入により,シード効果(混入物質の準安定準位を介して,希ガス等の電離が助けられる)等の影響が起こっていると推察された次第である.
|