研究概要 |
昨年度より調査してきた海外在住の日本人の保育ネットワークについて知見をまとめ,国内外の学会において報告・議論した計.この報告では,海外在住の日本人母同士の対面接触を通じた相互の情緒的サポートの様相と,特に対面接触の得られにくい海外地方圏におけるコミュニケーション・ツールの重要性が示された.これらの学会での議論をもとに英語論文を作成し,現在,海外誌『Netcom』に投稿中である. 次に,子育て支援の多様化の一環として,非共働き世帯向けの子育て支援である「地域子育て支援拠点事業」を取り上げ,大都市圏と地方都市における供給状況と利用可能性について現地調査を行った.これにより,行政の関与の強さの違いが施設配置にも影響を及ぼしており,利用可能性に格差を生じさせていることが明らかとなった. さらに,非大都市圏における保育の問題をさらに考察するために,沖縄県での調査を実施した.沖縄県は,非大都市圏のなかでも多くの待機児童を抱える地域であるとともに,アメリカ統治時代の歴史的背景によって,固有の「5歳児保育問題」が生じている.こうした地域的背景から,沖縄県では,認可保育所のみならず,認可外保育所や幼稚園,学童保育といったサービスが相互に補完的な役割を果たしながら保育のシステムを形成していることが示唆された. 以上の調査研究による知見を踏まえ,昨年以前に得られた知見とあわせ,地域の子育て支援のシステムに関する博士論文としてまとめた.博士論文では,大都市圏と地方圏における保育ニーズの多様化と,それに応じたサービス供給の地域的様相や利用者の生活空間,サービス供給において重要となる地域的主体の役割が明らかにされた.この博士論文によって,2010年3月に博士(学術)を取得した.なお,博士論文の内容の一部(「地方温泉観光地における長時間保育ニーズへの対応」)は,『地理学評論』に掲載された.
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