本研究では、生体内における分子認識能力に着目し、DNAへの平面構造を有する物質のインターカレーションやグルーブ結合を利用して、有害化学物質の電気化学的検出について検討した。はじめに紫外線照射によりDNAをフィルムとして電極上に作製し、電極活性な臭化エチジウム(EtBr)をインターカレートさせた時のサイクリックボルタモグラムを測定し、EtBrのDNAフィルムへの集積挙動について検討を行った。そして本法をダイオキシンの骨格物質でもあるジベンゾフラン(DBF)の検出に応用した。DBFは他の多くの有害物質と同様に電極不活性物質ということが知られているが、EtBrとDBFをDNAに対して競争反応させることで、そのとき得られるEtBrの電極応答の変化からDBFの集積について検討が可能であることが確認された。これはDNAへの結合サイトに対する競争反応によりDBFのような電極不活性物質であっても、電気化学的検出が可能であることを示唆した。さらに、このDNAフィルム電極をエストロゲン物質に応用した。合成女性ホルモンのDESを用いて検討を行った結果、DESの明らかな電極応答が確認され、走引速度依存性も確認された。そこで、DESとDNAとの相互作用における、その結合様式を明らかにするため、代表的なインターカレーターとグルーブバインダーとを用いることで、DESとDNAとの相互作用について電気化学的に検討した。結果、この相互作用はグループ結合の寄与が大きいことが示唆された。以上から、DNA-インターカレーター、あるいはグルーブバインダーの結合サイトとの強い相互作用を利用することで、有害物質の検出の可能性が示唆された。今後このような分子認識能およびその反応を利用することで、環境汚染物質の定期的なモニタリング法の1つとしての利用も期待される。
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