研究概要 |
近年,強ひずみ加工であるECAP(equal-channel angular pressing)処理によりAlの結晶粒をサブミクロンあるいはナノレベルまで微細化して,強度および延性等の機械的特性を改善することが注目されている。一方,Al合金は,通常,耐食性,硬度等を改善するため陽極酸化(アルマイト処理)を施して使用されることが多い。しかし,陽極酸化したAl合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響については,これまでに報告されていない。そこで本研究では,代表的な高張力Al合金であるAl-Cu合金およびその陽極酸化膜の耐孔食性に及ぼすECAP処理の影響を調べた。 Na_2SO_4 0.1mol/L+NaCl 8.46mmol/L(300ppm Cl^-)およびAlCl_3 0.2mol/Lの水溶液における分極曲線およびAlCl_3 0.2mol/L水溶液における腐食速度の測定結果より,Al-Cu合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響はほとんどないことが分かった。Al-Cu合金にはAl_2Cu,Al_2CuMg,Al-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物が析出しており,腐食はAl_2Cu,Al-Cu-Si-Fe-Mn系,Al-Cu-Mg系析出物の周辺で生じていた。これらの析出物はECAP処理により分断され,サイズが減少したものの,純Al,Al-Mg合金の場合に比べ数が多いため,耐孔食性は向上しなかったと考えられる。 一方,陽極酸化したAl-Cu合金においては,孔食が発生するまでの時間は,ECAP処理を行った方が明らかに長くなっており,ECAP処理により耐孔食性が改善されることが分かった。Al-Cu合金には合金元素からなる第2相析出物が存在しているが,この析出物はECAP処理により分断され微細となった。析出物の中でもAl_2Cu,Al_2CuMgは陽極酸化の際に溶解して消失したが,SiおよびAl-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物は陽極酸化の際に酸化されず酸化膜中にそのまま存在し,欠陥部を形成していた。陽極酸化したAl-Cu合金の孔食は,この析出物の周辺から開始した。ECAP処理を行なうと析出物が分断され微細になることから,ECAP処理により陽極酸化Al-Cu合金の耐孔食性が改善されたのは孔食の起点になる析出物のサイズが減少したことによるものと考えられる。
|