研究課題
特別研究員奨励費
ミトコンドリアNADH-ユビキノン酸化還元酵素(複合体-I)は、ATP合成の駆動力となる自由エネルギーの約半分を生産する、呼吸鎖電子伝達系の中でも最も重要な役割を担う酵素である。ヒトでは複合体-Iの機能傷害によって生じた酸化ストレス等が原因となって、パーキンソン病などの神経変性疾患や種々のミトコンドリア病が発症することが報告されている。また、複合体-Iは合成農薬や抗寄生虫薬の有力なターゲットとしても位置づけられていることから、基礎研究のみならず応用的研究の対象としても有望である。H20年度は、前年度に引き続き、複合体-Iのユビキノン還元部位に関する情報を得るため、特異的阻害剤であるキナゾリンを鋳型とした光親和性プローブ[125I]AzQを合成し、ウシ心筋ミトコンドリアに対する光親和性標識実験を行った。各種2次元電気泳動と質量分析を組み合わせて放射能標識されたタンパク質の解析を進めた結果、[125I]AzQは複合体-Iの親水性領域の49kDaサブユニット、および膜貫通領域のND1サブユニットの両者をおよそ4:1の比率で特異的に標識することを明らかにした。[125I]AzQの主たる標識部位となった49kDaサブユニットについては、2006年に明らかになった好熱細菌(T.thermophilus)複合体-Iの部分結晶構造から、このサブユニットはプロトン輸送を司る膜貫通領域との接続部に位置し、ユビキノンの結合ポケットを構成していると考えられている。そこで、49kDaサブユニットをさらに詳細に解析した結果、Asp41-Arg63の23残基が[125I]AzQの結合部位であることを明らかにした。この領域は結晶構造から予想されていたユビキノン結合ポケットの構成領域であり、位置特異的変異によって示唆されている酵母(Y.lipolitica)複合体-Iのユビキノン還元反応に関わる重要アミノ酸をカバーする領域であった。以上のように、本研究では複合体-I阻害剤の結合部位を初めてアミノ酸レベルで明らかにし、かも阻害剤結合部位がユビキノン反応部位の近傍に存在することを証明した初めての報告である。
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http://www.biofunc-chem.kais.kyoto-u.ac.jp/