研究概要 |
本研究員は現在までに、リボソームRNAに生じた紫外線傷害の一部が細胞内で修復されることを示唆する結果を得ていた。そこで今年度も前年度に引き続き、本研究員がZ1,Z2と名づけた傷害に着目し、修復される傷害の分子的実体の特定を試みてきた。傷害の分子的実体については、これらの傷害がRNA鎖の切断ではないことを特定ずみであり、おそらく質量変化を伴う傷害であることが推測できたため、傷害部位を含む数種のRNA断片を調製し、質量分析法を用いて分子的実体の特定を行うという方針で研究を進めてきた。 前年度までの解析結果から傷害が存在する塩基をおおよそしぼることができていたが、傷害の分子的実体の特定にはまだ至っていなかった。そこで今年度は、質量分析の精度を上げるため、特に分析に用いるRNA断片の改良に力を入れて研究を行った。この結果、今までよりも精製度が高く、またRNA鎖の長さが今までよりも短いRNA断片を、大量に効率良く精製する系を立ち上げることに成功した。そしてこの系を用いて精製したRNA断片を東京大学の鈴木勉博士の協力のもと、博士所有の質量分析装置を用いて解析したところ、傷害Z1,Z2の質量をほぼ特定することができた。この質量分析結果から、傷害の分子的実体が質量変化を伴った塩基間クロスリンクである可能性が高いことがわかった。 ただ、このクロスリンクがどのような結合様式を取っているのか、具体的には特定できていない。このため、今年度中に論文投稿をすることはできなかったが、具体的な結合様式の特定はあと数ヶ月程度でできると考えているので、この特定が完了したら論文を作成して投稿する予定である。
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