低振動数ラマンスペクトルの変化を0.1秒単位で高速に追跡可能な新規の分光手法を開発した。この結果をApplied Spectroscopy誌などで発表し、表紙に掲載されるなどの形で注目を集めた。この手法を用いることにより、格子振動などの分子間振動が相転移などによって変化する様子をリアルタイムに追跡することができる。さらに本年度は、この手法を用いたイオン液体融解過程の観測を行うことで、液体状態のイオン液体に見られる低振動数ラマンバンドが結晶状態からどのように生じるのかを研究した。 典型的なイミダゾリウム系イオン液体である、塩化ブチルメチルイミダゾリウムの結晶を急熱して、融解する過程の0.5秒単位での実時間観測を行った。その結果、低振動数領域に見られるシャープな複数の格子振動バンドが加熱に伴って消失し、消失に伴って幅広の低振動数ラマンバンドが生じる様子を観測することができた。この幅広のバンドは200cm-1以下の振動数領域に見られるバンドであり、液体状態のイミダゾリウム系イオン液体全般に見られるバンドと一致している。さらに、指紋領域及び低振動数領域のスペクトルを比較することにより、カチオン内部のブチル基コンホメーション変化と格子振動の消失過程とを比べることができる。その結果、内部構造変化が結晶構造の消失より遅れて起こることが明らかになった。これは内部構造を保つような結晶秩序が、融解の後期まで持続していることを意味しており、イオン液体の秩序構造に関連したものと予想している。
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