研究概要 |
化学物質の代謝能は,各生物種により非常に多様である。その結果,生物種間で化学物質の蓄積特性に違いが生じ,その化学物質耐性にまで影響がおよぶ。一方,化学物質の生態系への影響は未だ不明な点が多い。その原因の一つとして,化学物質の毒性メカニズムや代謝メカニズムの研究が主に魚類や哺乳類など,脊椎動物を対象としたものであり,地球上に生息する動物のうち95%を占めると言われている無脊椎動物についてほとんど注目されてこなかったことが挙げられる。そこで本研究では,無脊椎動物の中でも,水圏において特にバイオマスの大きい甲殻類に注目し,その異物代謝第一相反応の主要な酵素群であるシトクロムP450と異物代謝第二相反応のcharacterizationを行った。その結果,甲殻類は,脊椎動物や昆虫類を含む他の無脊椎動物とは異なる独自の異物代謝反応を行っていることが明らかになった。 これまで,脊椎動物や昆虫類などの無脊椎動物で生成される抱合体は,グルコース抱合体,グルクロン酸抱合体,および硫酸抱合体であることが報告されてきた。しかし,甲殻類ではこれら抱合体の他に,グルコースに対し更に硫酸が負荷した「グルコース-硫酸抱合体」を生成していた。一方、本研究によりフィールドレベルで行った調査により、魚類と甲殻類では明らかに多環芳香族炭化水素類(PAHs)の蓄積特性が異なった。本研究で明らかにした甲殻類の特徴的な代謝反応が、フィールドで実際に観察された化学物質の蓄積特性に影響を与えたと考えられる。 本研究により、化学物質の蓄積特性・感受性の種差に対する、異物代謝系の新たなメカニズムを解明できた。
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