研究概要 |
本研究では「プランクトン群集構造を決定する生物間相互作用の役割とメカニズムを解明し、それを撹乱する人為化学物質の影響を解明すること」を目的としている。具体的には、富栄養湖で優占種となることの多い、2種のゾウミジンコ(Bosmina longirostrisとB.fatalis)と2種の捕食性プランクトン(ケンミジンコとノロ)の4者間での捕食・競争関係を明らかにすると共に、それらの生物間関係を撹乱する殺虫剤の影響を、数理モデルを用いた解析により明らかにすることを目指してきた。 2008年度は学位の取得に伴い、所属機関を(独)国立環境研究所に変更し、恵まれた実験設備・優れた研究者・スタッフのサポートに助けられ本研究を飛躍的に発展させることができた。前年度の研究から、ゾウミジンコは捕食者の情報化学物質(カイロモン・化学刺激)による防御形態の誘導の他に、捕食者との物理的な接触による刺激(物理刺激)によって特有の防御形態が発現されることが明らかになった(Sakamoto et al.,2007)が、今年度はこれを踏まえて殺虫剤(生物間相互作用を撹乱する)の存在下で個体群・群集レベルでの実験を行った(Sakamoto and Tanaka,in prep.)。殺虫剤の生物(光)分解速度を調べるためには試水中殺虫剤の濃縮・抽出をし、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いた分析を行った。この実験を行うことで、化学分析の手法も習得することができた。 また、世界でも成功例のほとんどないノロ(捕食性ミジンコ・北半球の湖沼に生息する主要な二次消費者)の室内培養に成功し、捕食選択性、餌生物の防御形態を誘導させた条件での捕食実験を行うことができた。さらに殺虫剤(カルバリル)と重金属(銅、亜鉛、カドミウム)への感受性を餌条件の異なる場合で調べ、得られた結果を国際誌に投稿した(Sakamoto et al.,under review)。 動物プランクトン個体群(群集)変動の制御に強く寄与する「対捕食者誘導防御」の役割と、それに対する人工化学物質(殺虫剤)の影響を数学的に解析するためには、個体群レベル実験と個体レベルでの生命表実験を行い、捕食者の直接的補食・カイロモン・殺虫剤の存在下でミジンコ個体群増殖速度を調べた(Sakamoto et al.,in press)。その結果、ゾウミジンコの防御形態の維持(幼体の間のみ、捕食者の有無に関わらず維持される防御形態)にも殺虫剤が影響することがわかり、さらに、致死影響濃度以下(sublethal concentration)がどの程度個体群増殖に影響を及ぼすのかが明らかになった。 現在これらのデータを用い、受け入れ研究者である田中嘉成室長のもと、個体群変動モデルの構築を試みている。
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