本研究は、全エネルギー計算を一歩進めて、水素化物の原子間の化学結合をエネルギースケールで表現する方法を提案したものである。水素貯蔵の候補材料である炭化水素、ペロブスカイト型水素化物、金属水素化物、錯体水素化物の化学結合を原子化エネルギーを用いて調べた。原子化エネルギーとは、孤立中性原子のエネルギーと化合物中の原子のエネルギーの差である。原子化エネルギーを使うことにより、全エネルギー計算のみでは得られなかった化合物形成における構成原子の役割を知ることができる。例えば、炭化水素中の炭素間の化学結合の性質を、従来の単結合や多重結合といった概念を用いずに、原子化エネルギーによって理解することができた。各種炭化水素C_mH_nにおいて、炭素の原子化エネルギー、ΔE_cはm/n比に対して直線的に上昇するのに対し、水素の原子化エネルギー、ΔE_Hはほぼ一定の値となった。金属水素化物のMg_2NiH_4とTiFeH_2は、金属間化合物Mg_2Ni、TiFeが水素化することにより生成される。水素化反応によって、水素近傍に位置するNiおよびFe原子の原子化エネルギーは大きく減少し、あたかもそのエネルギーが水素原子へ移り、水素の状態を安定化している。これらの解析を基に、異なる化学結合様式を持つ水素化物や炭化水素の化学結合を、エネルギースケールで統一的に理解できる原子化エネルギー図を提案した。
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