研究概要 |
本研究では、高いブロッキング温度を持つ単分子磁石を合成し、量子スピントンネリングについて検討を行うことを目的とした。 1.前年度では,キラル中心をもつ単一次元鎖磁石を合成した。今年度,新たに有機配位子を光学分割されたものからラセミ体に変更することで,全く構造の異なる鉄・ニッケル四核環状錯体を得ることに成功し,これが単分子磁石であることを明らかにした。すなわち配位子の光学分割の有無だけで,全く異なる構造をもつ単一次元鎖磁石と単分子磁石を選択的に得ることが可能であった。単分子磁石のブロッキング温度はそれほど高くなかったものの,この結果は錯体合成において新たな設計指針を与えるものである。 2.量子スピントンネリングについては,単分子磁石以外の面からも検討を試みており,前年度は大きなトンネル障壁を持つと予想されている反強磁性的な7員環錯体の合成に成功している。今年度はW.Wernsdorfer教授のグループとの共同研究により,40mKという極低温で磁化測定を行った。その結果,巨視的量子効果による特異な挙動を観測することに成功した。磁化曲線の詳細な解析を行った結果,ゼロ磁場付近のステップは非断熱過程だけでは説明できなかった。これはスピンキラリティーに関連した,量子スピントンネリングの存在を示唆するものである。近々6および8員環錯体について測定を行い,7員環と比較することで,反強磁性的な奇数員環システムの特異性をより明らかにする予定である。
|