Pd/C-D_2O-H_2の組み合わせによるベンジル位選択的H-D交換反応の適用拡大、重水素の同位体効果に基づいた反応機構の解明及びPd/C(en)触媒を用いたΟ-ベンジル保護基のベンジル位選択的重水素標識化法の開発について検討した。 1. ベンジル位H-D交換反応の完結には室温下長時間(72時間)を必要とすると共に、同一分子内にカルボキシル基やアミノ基が共存する基質では反応性が低いという問題点を有していた。そこで、加熱による反応の加速効果を検討したところ、50℃でベンジル位のH-D交換効率が劇的に向上することを見いだし、反応時間を数時間程度まで短縮することに成功した。さらに、50℃の加熱条件下では、カルボキシル基やアミノ基が共存する基質のベンジル位やトルエン誘導体のメチル基も効率的に重水素化されることを明らかとした。 2. 本反応の重水素源は、Pd/Cを触媒としたD_2OとH_2間のH_2-D_2交換反応により、系内で生成するD_2ガスであることが明らかとなっている。一定時間後の系内にはD_2及びHDガスが共存するが、重水素化が効率的に進行する。そこで、HDガス(市販)の重水素供給能を検討したところ、-CH_2-型のベンジルを有する基質では低D化率ながら重水素化が進行するが、ベンジル位メチレン水素の1つが重水素化された-CHD-型のベンジル位では重水素化が進行しないという興味深い知見を見いだした。 3. 当研究室で開発した官能基選択的接触還元触媒であるPd/C-エチレンジアミン複合触媒[Pd/C(en)]を用いたΟ-ベンジル保護基のベンジル位選択的H-D交換反応を確立した。通常、Ο-ベンジル保護基はPd/C触媒による接触還元条件下、容易に水素化分解されるが、本反応系では脱保護反応が併発することなく、ベンジル位のみを効率的に重水素標識化することができる。
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