日本では、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の防疫対策としては摘発淘汰を基本とし、防圧が困難な非常時に備え、高力価のワクチンを備蓄しておく方針が採られている。そこで野生水禽から分離された2株の非病原性鳥インフルエンザウイルスの遺伝子再集合体H5N1ウイルス株を鶏胚で培養不活化し、生物製剤基準に準じてワクチンを試製した。本ワクチンを接種したニワトリをHPAIウイルスで攻撃し、免疫効果を評価した。攻撃株として、2004年山口県で発生したHPAIの病原ウイルスであるA/chicken/Yamaguchi/7/04(H5N1)およびモンゴル国で発見されたオオハクチョウの斃死体から分離されたHPAIウイルス、A/whooper swan/Mongolia/3/05(H5N1)株を用いた。いずれの場合もニワトリは臨床症状を示すことなく耐過した。作製したワクチンの効果発現日数を測定したところ、ワクチン接種後6日以内のニワトリは攻撃ウイルスにより全て死亡したが、ワクチン接種8日目のニワトリはHI抗体が検出されないにも拘わらず、HPAIウイルスの攻撃に対して耐過した。ワクチン接種後6ケ月のニワトリにおいても、HPAIウイルスの攻撃に十分耐過できる抗体価を有していることも確認された。これらの結果から、本ワクチンは日本国における鳥インフルエンザの緊急用備蓄ワクチンとして利用し得ることが明らかになった。以上の研究を踏まえ、ワクチン株の改良を主眼とした研究を引き続き行った。ワクチン株である、A/duck/Hokkaido/Vac-1/04(H5N1)(Dk/Vac-1/04)株は、静脈内接種によりニワトリに対して非病原性と判定されたが、鶏胚に対して中等度の病原性を示すことから、製造効率では不十分であることが示唆された。そこで、Dk/Vac-1/04株の鶏胚に対する病原性を決定する遺伝子を同定することを目的とした人工作出ウイルスを9日齢発育鶏卵の尿膜腔内に接種し、8時間毎にその生死を観察して、鶏胚の平均致死時間を算出したところ、PB1遺伝子およびPA遺伝子が鶏胚に対する病原性に関与することが判った。
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