目的 本研究の目的は、市民の政治参加について動態的なモデルを構築し、そのモデルの妥当性を実証することによって、市民が政治的な活動に参加するメカニズムを明らかにすることにある。目的を達成するため、本年度は以下2点を中心に研究を実施した。 (1)自律的な主体(市民)の相互作用がシステム全体(社会)にもたらす特性や影響をモデル化できるマルチエージェントモデリングを用いた新たな政治参加モデルの構築 (2)有権者が持つ様々なアイデンティティ(以下ID)の変化が投票参加や投票方向にもたらす影響を明らかにするための実験の実施 実施状況 (1)市民が自身の行動と選挙結果をもとに学習しながら適応的に参加/不参加を決定していくモデルを構築し、シミュレーションによってモデルの振る舞いを観察した。その結果、従来の政治参加を表す数理モデルよりもより現実に近い参加率、選挙結果を予測することができた。また、有権者の若い時期での投票経験と支持政党の連勝がその後の参加に大きな影響を与えている可能性があることが示された。本研究で得られた知見をもとに昨年5月の日本選挙会及び、10月の国際シンポジウムにて報告を行った。 (2)科学研究費補助金を用いて、インターネットによる実験世論調査を実施した。この調査は、日本の会社員1000名を対象に彼らの社会的IDと党派性を測定し、実験群と統制群に分けた上で実験群の被験者には彼らのIDに対する刺激を与え、IDが投票参加と投票方向に与える影響を明らかにしようとするものであった。調査は本年8月下旬に実施した。調査の結果、有権者は自分が属している政治集団が、自分が属している社会集団の中において少数派である場合には、政治的なIDには依らないで意志決定を行う可能性があることが示された。本研究の内容は、昨年10月に開催された実験社会科学コンファランスおよび、本年2月に行われた国際コンファランスにて報告を行った。
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