研究課題/領域番号 |
07NP0101
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研究種目 |
創成的基礎研究費
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡崎国立共同研究機構 |
研究代表者 |
井口 洋夫 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 名誉教授 (00100826)
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研究分担者 |
入江 正浩 九州大学, 機能物質科学研究所, 教授 (30001986)
清水 剛夫 京都大学, 工学部, 教授 (10025893)
北川 禎三 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (40029955)
丸山 有成 法政大学, 工学部, 教授 (40013479)
吉原 經太郎 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (40087507)
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研究期間 (年度) |
1991 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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キーワード | 分子環境 / 高機能性物質 / 光デバイス構築 / 分子複合系導電性高分子 / 分子フォトニクスシステム / 反応の磁場効果 / フラーレン / 紫外ラマン分光 / 光電極反応 / 光・電子情報交換 / 多元応答光機能分光 / 高次構造制御分子材料 |
研究概要 |
新プログラム「分子システム」の第5年次を完了し、5年計画の本研究を成功裡に完結した。多くの成果の中で、各班毎に1課題を選択する。A-1班(分子環境)では、その基盤研究である電子移動の分野で溶媒和時間に制限されない新しいタイプの分子間電子移動を見出した。これは日本化学賞の受賞につながった。A-2班(高機能性物質)に於ては実験的に電極反応、光電素子等の根幹となる有機物-金属の界面ポテンシャル図について従来の考え方とは全く異なる形態を提案した。A-3班(光デバイス構築)では光合成反応中心タンパク質のモデル系を構築、2段階電子移動反応を用い長寿命電荷分離状態を具現させた。B-1班(分子複合系導電性高分子)では共役系高分子を用いての量子サイズ効果をあげることが出来よう。B-2班(分子フォトニクスシステム)ではフォトクロイズムの新分野を切開く光応答に対して鍵のかかる発色分子系の構築があげられよう。これはダビンチ賞の受賞につながっている。本新プログラムは総勢28名のチーム編成に加え10名の日本人博士研究員、12名の外国人研究員の協力を得て行われた。これらは5回の国際研究集会、及び公開講演会によって衆知しつつ、新分野の創成を示すための総括として出版物「分子機能学」を来年2月に刊行する予定である。 各班の成果は下記の通りである。 A-1班(分子環境)では、分子環境の機能発現に対する効果を研究した。反応に対する溶媒分子の効果は、原系、遷移状態、生成系のエネルギーを変化させるものとして理解されてきたが、近年は溶媒揺らぎなどの動的効果が注目されている。電子移動について、溶媒和時間に制限されることのない新しいタイプの分子間電子移動が見出した。電子移動反応経路における溶媒座標と分子内原子座標の役割がより明確になった。異性化反応の研究において、はじめて「遷移状態の振動量子化状態」を分光学的に発見することができた。超臨界流体溶液中では、溶質分子の周囲に溶媒分子が集まることによって一種のクラスターが形成されていることを、UV・Ramanのスペクトルシフトから明らかにした。また、極性超臨界流体中では、密度を上げて極性環境を増していくと分子内電荷移動反応がおこり、その生成速度がクラスタリング数と揺らぎの大きさに支配されていることが判明した。π電子系を主体とする分子のクラスター(分子小集合体)中では、集合体の
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サイズが大きくなっても、或は、液体状態であっても、2量体カチオンに電荷が局在することが証明された。又、この2量体カチオンが赤外部に強い吸収を持ち、この励起状態が光合成系のエネルギー変換機構に果す役割の重要性が指摘された。物理的な外場としての磁場(最大14T)の種々の化学反応に与える効果を研究した。有機光化学反応では、磁場効果の逆転現象を発見しその機構を解明した。無機酸化還元反応では勾配強磁場による効果を、また反磁性化合物の結晶の磁場配向を新たに見出しその機構を解明した。固体表面は特異的な分子環境を与え、解媒反応の基礎となっている。金属表面としてPt(111)、半導体表面としてSi(100)を用い、これに吸着したN_2OやCH_4の解離、脱離を含む光誘起過程に光励起メカニズムと解離のダイナミクスに焦点を絞り、詳細な研究を行い新しい知見を得た。 平成7年度、A1班では分子環境の分子機能発現への影響について研究を行った。溶媒緩和時間に律速されない新しいタイプの分子間電子移動の機構をより明確にする目的で、重水素効果を調べた。電子移動速度は溶媒間で水素結合をする系で重水素置換効果が顕著に見出された。アミンを溶媒とする系では水素結合の生成と破壊が溶媒和過程と電子移動の反応速度に影響を与えており、溶媒構造と電子移動の関連が明らかになった。超臨界CF_3H中でジメチルアミノベンゾニトリルの分子内電荷移動の生成速度を測定し、その速度が流体の密度に比例して増加することを見出した。この傾向はクラスタリングのモデルのみでは説明できず、流体の揺らぎを考慮する必要があることを、分子動力学計算から示した。水とアルコールのような2種分子からなる混合液体内での分子の存在状態の研究からは、分子間の凝集エネルギーにある程度の違いがある場合、2種の分子はそれぞれ同種の分子どうしが排他的に会合し透明に見えてもミクロには相分離したような状態で溶解することがラマン散乱の結果から明らかになった。金属樹と結晶成長の強磁場効果(最大8T)を研究した。硝酸銀水溶液に銅棒を浸すと銀樹が生成する。ゼロ磁場では棒の周りに均一に銀は析出するが、勾配強磁場中では銀樹の析出に大きな偏りがみられた。また、強磁場中で反磁性であるベンゾフェノン結晶の磁場配向が見られ、その機構を明らかにした。固体表面の特異な応用場を用いる研究ではPt(111)表面上に吸着したメタンが紫外光照射によって解離反応することを見出した。その反応断面積の偏光・入射角依存性を調べることにより、励起が吸着種に局在化した直接遷移が重要な役割を果していることを明らかにした。 A-2班(高機能物質科学)では、研究課題「人工制御分子システムにおける物質 情報変換」のもとに、特に「新機能発現をめざした物質創成」をキーワードに各班員がそれぞれ独自の物質系に焦点をあてて研究を展開してきた。 1動的水素結合系の導入に基づく新規物性の発現とその制御。分子の自己集合力として注目されてきた水素結合に動的特性を付与し、さらにそれを一要素体とする高次構造体において他の要素体と共に協奏的に新しい機能を発現するような機能集積型分子システムの構築を行った。具体的には、分子内にπ電子系と共役した水素結合を持つ3-ヒドロキシエノン類固体における量子常誘電性の存在を発見した事、分子間に強い水素結合をもつ四角酸誘導体の一次元結晶での異常な誘電特性の発現を見出した事などがあげられる。 2分子システムにおける光誘起相転移の探索的研究。双安定状態をもつ系における1次相転移の熱ゆらぎによる発現が抑制されている場合でも、光励起状態を経由させることで相転移を誘起できることを見出した。この現象は協奏的であり光励起は局所的臨界核形成の役割を果すことが明らかとなった。この現象は強い電子-格子相互作用をもつ分子システムで起りやすいと考えられ、実際にポリジアセチレン結晶、TTF・クロルアニル電荷移動錯体結晶などで観測された。この現象を利用した電導性、磁性の制御が可能と考えられるに至った。 3光電子分光法による有機-無機界面電子構造の研究。光増感反応や光起電力効果を示す分子システム系の電子構造を正しく理解しその物性発現に資するために、有機-無機界面電子構造と光電子分光法を用いて詳細に調べた。その結果、これまで知られていなかった大きな界面電子2重層が存在することが明らかとなり、上記物性の発現機構もよく理解できるようになった。これらの実験結果の集積により、有機半導体型分子システムの分子素子としての実用的応用への道が開けてくるものと考えられる。 4新規分子システム固体における電子物性(機能)の研究。フラーレン類と総称される炭素原子クラスターを要素単位とする固体(分子性固体)について、分子の合成及び単結晶の作製から始めて、その固体の示す特異な物性(伝導特性、超伝導特性、強磁場性等)を研究した。これらの研究によってこの系は新規な分子システムとして新しい機能発現の高い可能性を有する事を示した。固体構造の一形態として特異な構造を持つフタロシアニン超薄膜の作製に成功し、その構造に由来する非線形特性を見出し、分子素子としての高い可能性を示した。 平成7年度の研究成果を以下にまとめて報告する。 1動的水素結合系として、前年度から引きつづき3-ヒドロキシエノン類及び四角酸誘導体の誘電特性について研究を行った。前者については、分子内水素結合系において固体内で対称的な二重井戸型ポテンシャルを有する系(5-ブロモ-9-ヒドロキシフェナレノン)で、水素基のプロトンを重水素化すると、その誘電特性において正常相から不整合相、不整合相から整合相という2種の相転移が誘起されることを見出した。また、後者についても、いくつかの新しい四角酸を開発し、その結晶相の分子間水素結合に基づく擬一次的な誘導挙動も見出した。 2いろいろな分子システムにおける光誘起相転移現象の研究をさらに進展させ、その可能性を追求した。即ち光誘起相転移を利用した電導性、磁性の制御が実際に可能ないくつかの系を見出して報告した。そして、それらに対して統一的な理解の方向を示すことにも成功した。 3有機物質と無機物質の界面電子構造について、その理解を深める光電子分光法による研究をさらに進めた。その結果、従来の単純な接合モデルはいずれも正しくない事が明らかとなり、特異な表面準位などの導入が必要であることが示された。 4有機物質の超薄膜の構造と光非線形特性との相関に関する研究が進められて、3次光非線効果の分光特性に顕著な、膜構造に基づく異方性が初めて見出され、その新しい機構が議論された。 A-3班(光デバイス機構)では、光合成反応中心タンパク質複合体では超高速かつ高効率の電荷分離と電子移動が本質的機能である金属ポルフィリンの光励起状態のダイナミクスを解明するために、ピコ秒時間分解共鳴ラマン散乱測定装置を分子研に設置し、(ππ^X)励起後の超高速緩和で金属の(dd)励起にエネルギー移動し、そこで振動緩和がピコ秒の時間スケールで起ることを明らかにした。またタンパク質中の電子移動とプロトン輸送のカップリング機構をチトクロム酸化酵素を材料にして調べると共に、タンパク質高次構造ダイナミクスを時間分解紫外共鳴ラマン分光法で調べていく方法論を確立したことは国際的にも注目された。 光合成反応中心タンパク質のモデル系を種々合成し電子移動ダイナミクスを調べた。その結果、(1)2分子間電子移動速度は最低励起状態のエネルギーと酸化還元電位により推測できること、(2)長寿命電荷分離状態を実現させるためには少なくとも3成分系化合物が必要であること、(3)長寿命電荷分離状態を90%以上の量子収率で生成するポルフィリン-イミン系の構築に成功したこと、(4)中間のポルフィリンを変えることにより電荷分離を制御することが出来ること、(5)サブナノ秒の電子移動は空間を通過するのではなく化学結合を通ること等を明らかにした。 光機能性分子を薄膜中に並べ人工光合成システムを構築することに成功した。TiO_2やZnOで代表される無機半導体やアゾベン誘導体で代表される有機化合物を用いて、その薄膜を蒸着、スプレーバイセリシス、LB、SA法等で作り、この光応答性固相を用いて溶液あるいは気相と接する界面を形成させた。この界面にも光照射して起る光電気化学応答特性を調べた。TiO_2やZnOでは水の光分解に成功し、ボロンをドープしたp型ダイヤモンド電極ではCO_2の光還元をする方法を確立した。M_0O_3、WO_3等のエレクトロフォトクロミズム材料では新しいディスプレイ素子を提案するに至った。またアゾベンゼン単分子膜を用いて逆転酸化還元系を構築し、微分光応答系を初めて人工構築することに成功した。 平成7年度は、光合成反応中心タンパク質のモデル系を合成し、タンパクの場合と同様に2段階の電子移動反応により、長寿命電荷分離状態を溶液中で実現させることに成功した。化合物は、亜鉛メチレンクロリン(ZC)と亜鉛ポルフィリン(ZP)またはフリーベースポルフィリン(HP)およびピロメリットイミド(I)を結合させた3成分系(ZC-HP-IとZC-ZP-I)である。最低励起-重項のエネルギーはZCが最も低いのでどの波長で励起してもエネルギー移動によりZC^Xがまず生成し、その後電子移動により(ZC^+-HP^--I、ZC^+-ZP^--Iを経て(ZC^+-HP^--I^-)、(ZC^+-ZP^--I^-)を生成する。DMF中での電荷分離状態の量子収率は90%に達し、タンパク質の系に近い現状が再現できた。ZPの励起-重項の時間分解共鳴ラマン分光を分子研で実験中である。 金属ポルフィリンの励起状態ダイナミクスをピコ秒時間分解共鳴ラマン分光法で詳しく調べた。ニッケルポルフィリン(NiP)を517nmの2.5psパルスで(ππ^*)状態に励起し、Δt秒後の共鳴ラマンスペクトルを426nmのパルス光で測定したところ、Δt=5ps〜200psの間で(dd)励起状態の振動が観測され、それは280psの時定数で消滅した。アンチストークスのラマンバンドはΔt=10〜20psで最大強度に達したが、その強度減少の時間的ふるまいは振動モードにより異なった。また振動モードの強度分布は、最初に励起する電子状態によって大きく変わることが明らかになった。 人工光合成系としてはアゾベンゼン誘導体単分子膜による超分光応答系を構築した。アゾベンゼンは光異性化を受け、紫外光照射によりトランス体からシス体に変わる。シス体は電気化学還元を受け易く、ヒドラゾベンゼンになる。これを電解酸化すると安定なトランス体に戻る。アゾベンゼン誘導体を単分子膜に組み込み、新しい高密度光記録系を色々構築してきたが、今回は光に対し微分応答する系を作ることに成功した。すなわち、電極をチオール修飾金基板にしてその上にLB法を用いてアゾベンゼン誘導体の単分子膜を作ることにより、シス体の還元電位が再酸化電位よりプラス側になるようにすることにより、光照射状態が変化する時のみその変化量に比例した電流シグナルを発生する系の構築に成功した。 B-1班(分子複合系導電性高分子)では、分子素子基板材料として、導電性ならびに磁性分子材料、ならびに導電性高分子の分子機能の基礎的研究、分子複合系導電性高分子材料、エネルギー・電子伝達分子回路構築などの研究を中心に、分子素子のための基本的ならびに要素的研究を推進してきた。 導電性ならびに磁性分子材料として、フラーレン、カーボンナノチューブをとりあげ、とくに後者において、金属的あるいは半導体的なラセンピッチをもつことを明らかにし、ナノチューブソレノイドを示唆してきた。さらに、フラーレン錯体の磁気物性の研究が始められた。導電性高分子の分子機能は多様であるが、分子のコンホメーション変化と電子状態との関係に古くから着目し、エレクトロクロミズム、発行、ソルバトクロミズム、サーモトロピック液晶法、メカノケミカルなどの機能、さらにフラーレンなどのアクセプターによる新しい構造依存の分子機能の開発を行ってきている。分子複合系導電性高分子材料の研究は、直接分子素子を指向した研究で、各種機能分子の導電性高分子による材料化、共役系高分子による量子サイズ効果をもつ超格子や傾斜材料の構築法の創案と、それによるII型超格子の実現、分子機能の共役的複合化による多元(多種)情報変換分子の実現、光機能分子(ポルフィリン)をワイヤーで結合した光スイッチと光情報の貯蔵機能をもつプロトタイプの分子素子材料の構築、さらに、人工制限酵素の創成など、新しい分子機能材料を具体化してきている。分子システムの最も典型的な応用として、積層型有機薄膜による光・電子伝達スイッチング理論素子の構築を行ってきた。従来の電子回路と対比させた分子回路といえるもので、種々の分子を近距離にLB多層膜構築法を用いて、励起ドナー層、ホトクロミック層、アクセプター層の3層に分子配列したもので、ホトクロミック層のスイッチによる分子論理素子を構築してきている。 最終年度は、次に挙げるテーマを中心に研究を行ってきた。 1カーボンナノチューブの磁気物性を調べ、その電子物性を明らかにし、この試料では常磁性が存在しないことがわかり、非常に"きれいな"半導体であることが明らかとなった。一方、強磁性体であるTDAE-C_<60>について、その強磁性転移に伴う比熱の変化を、断熱カロリミトリ-法によって解析し、12.5Kで明確な強磁性転移を示すことを明らかにした。また、PTCDAのプラズマ重合物について、その局在準位についての知見を得た。 2ポリ(3-アルキルチオフェン)などの側鎖置換型導電性高分子-フラーレンシステムにおける顕著な蛍光の消失、光電導の増強、光起電力効果が光誘起電荷移動であることを確認した。同様のシステムにおいて長時間の継続するpersisten光伝導を発見した。さらに側鎖置換型伝導性高分子と強誘電性液晶の複合体において特異な強誘電性と電気光学効果を、またフォトクロミック分子との複合体において光伝導記憶効果をそれぞれ見出し、その機構を解明した。 3ポリチオフェン単分子膜のピコ秒蛍光分により、共役高分子の励起子緩和過程が分子間距離に依存することを明らかにした。また、σ共役をもつオリゴシラン単分子膜のSTMにより、電界リソグラフでナノスケールのエッチングを行うことに成功した。 42つのフォトクロミック分子、ジアリルエテン及びスピロピランを含むLB多層膜を作製し、励起子伝達を光によりスイッチングする2つの異なる波長の光を入力信号とする2入力型理論素子を作った。2つの入力信号に対する理論応答として、AND,OR,NADN,NORをはじめとする多くの理論演算が可能となり、このことは現在使用されている理論ゲート集積回路と等価な演算素子を、分子システムの光化学を応用してつくる可能性を見出した。 B-2班(分子フォトニクスシステム)は、人工制御分子システムの具体化をめざして、その基礎となる諸原理の構築、分子機能の動的制御の方法論の開拓を進めてきた。平成6年度までの成果をまとめると次のようになる。1複数の異なった機能をもったユニットを1つの分子に応答せず、2つ以上の刺激(光と化学物質、光と熱など)を受けてはじめて光発色する多元応答フォトクロミックジアリールエテン分子の開発に成功した。具体的には、分子内水素結合基、分子内S-S結合基、長いπ-共役鎖をもつジアリールエテン分子を合成し、それらが溶媒特異的、温度特異的に光発色することを明らかにした。2光子発消色する新しいフォトクロミック分子系も見出している。 2高効率で発光する有機エレクトロルミネッセンス素子を開発するために、新しい素子構造の提案、その系での発光機構の解明を行った。特に、ダブルヘテロ構造素子の構造変化による放出光の干渉効果および自然放射の増強効果の解明を行い、高輝度指向性発光素子の設計指針を明らかにした。 3高効率正電荷輸送層等への応用が可能なアモルファス分子材料の創出をめざして、新規なπ-電子系スターバースト分子の設計・合成、モルフォロジーの検討、ガラス状態の物性評価を行った。特に高いガラス転移温度をもち、なおかつ安定にガラス状態を維持できる種々の多置換トリフェニルアミン誘導体を合成し、分子構造と物性のと相関を明らかにした。 4高効率光電変換素子、高感度光メモリ素子への応用をめざして、種々の両親媒性A-S-D3つの組電荷分離分子を合成し、それらのLB膜について、光電荷分離過程を原子間力顕微鏡、表面電位顕微鏡、近視野顕微鏡等の走査プロープ顕微鏡を用いて解析した。また、蛍光消光を利用した高感度光メモリの原理を提示した。 最終年度は、以上の成果をふまえて、光メモリ素子、有機エレクトロルミネッセンス素子などの光機能をもった「分子フォトニクス素子」を具体的に作製し、その機能・性能の評価まで行った。その成果は以下のとおりである。 1多元応答光発色分子の応用として、2つの異なった波長の2光子を受けてはじめて光退色するフォトクロミック分子の開発に成功した。即ち、366nm光の照射のみでは退色しないが、同時にλ>450nm光を照射すると退色するナフトピラン誘導体を見出した。この分子は、原理的に光演算への応用が可能である。これまでに開発したフォトクロミック分子を記録媒体とした光メモリ素子を作製し、超高密度光メモリの試みを行った。記録用光源としては極微小の開口部(〜100nm)もつマイクロピペットを用いた。その結果、約80nm径のピット形成が認められ、原理的に現状の光ディスクメモリの100倍以上の高密度比が可能であることが確認された。 2ダブルヘテロ構造から成る有機エレクトロルミネッセンス素子に誘電体多層膜からなる反射膜を加えて、マイクロキャビティ構造を作製した。発光物質としては、有機配位子とユーロピウムからなる錯体を用いた。これは617nmをピークとするスペクトル巾の狭い蛍光を発する。有機層の厚さを変化させることにより、円錐表面に沿う形の発光が得られ、有機層厚が87nmのとき、放出角が0°即ちデバイス面に直角方向に強く指向したEL発光をとり出すことに成功した。 3低分子でありながら、高いガラス転移温度をもち安定なアモルファス状態を形成する多置換トリフェニルアミン誘導体を2層積層し、それを正電荷輸送層とした有機エレクトロルミナッセンス素子を作製した。このアモルファス分子材料は、これまでの有機EL素子の欠点である低耐久性の克服に有効であることが明らかとなった。 4両親媒性A-S-Dにフッ化炭化水素両親媒性化合物を混合したLB膜を作製し、その相分離構造、、光起電力発生を摩擦力顕微鏡、表面電位顕微鏡により観測した。その結果、光合成反応中心に似たナノ構造、高効率電荷分離が認められた。 隠す
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