研究課題/領域番号 |
08041077
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
山中 雅夫 追手門学院大学, 経営学部, 教授 (20079346)
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研究分担者 |
PURCELL Will ニューサウスウェールズ大学, アジア研究センター, 助教授
WHITWELL Gre メルボルン大学, 経済経営学部, 教授
MERRETT Davi メルボルン大学, 経済経営学部, 助教授
NICHOLAS Ste メルボルン大学, 経済経営学部, 教授
森島 覚 追手門学院大学, 経済学部, 講師 (80278598)
川口 章 追手門学院大学, 経済学部, 助教授 (50257903)
米原 淳七郎 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (60028040)
遠山 嘉博 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (00079336)
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研究期間 (年度) |
1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
1996年度: 3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
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キーワード | 産業政策 / 多国籍企業 / 対外直接投資 / 輸出志向 / 国際分業 / 国際競争力 / 世界最適調達 / APEC |
研究概要 |
オーストラリア政府は、1991年「競争力あるオーストラリアを築くために」と題して、競争による合理化を指導原理とする新産業政策を導入した。APECの提唱国として、自由な競争を建て前とし、新たな世界の経済秩序構築の積極的担い手になるべく、身を以て保護主義への歴史的決別を行った。かくして輸出志向型の製造業育成を目指す新産業政策を導入し、大幅な関税削減その他の規制緩和を推進してきたわけである。 その包括的対応策は、関税引き下げ、企業を対象とした卸売売上税の減税、減価償却の簡素化による企業貯蓄の振興、労働調製プログラム、さらに「賢明な国」を築くための教育・研究プログラムなどの広い範囲にわたるものであるが、それらはいずれもオーストラリアの競争力を強化するという一点に目的が収斂している。この政策転換から5年を経て、かつて関税ならびに非関税障壁で手厚く保護されていた製造業の経営環境は一変した。 新産業政策の展開は、豪州の輸出構造に確かな変化をもたらしている。この10年間で、オーストラリア全体の輸出増の年平均が8.8%であったのに対し、製造業の年平均の輸出増加率は17.7%に達している。とくに、付加価値の高い通信・情報の先端技術関連製品の輸出増が顕著である。自動車の大幅な輸出増も見込まれている。 しかし、関税率の低下にともなう輸入品の急増が製造業の経営を圧迫することとなった。日本の多国籍企業(製造業)の中には、安価な輸入品にシェア-を奪われ、価格競争では利益を出せず、ついに生産撤退を余儀なくされた企業もあれば、既存製品の生産縮小を多角化展開でカバーする企業もある。また、国際分業による多国籍展開で規模の経済を確保するとともに、効率化推進に懸命の努力を繰り広げている企業もある。日系多国籍企業と言っても、産業により、企業により、その行動は多様である。 企業は、環境の中の生き物である。企業はヒト・カネ・モノ・情報(技術蓄積・顧客情報・販売網・ブランド・信用・企業イメージ等)という経営資源を開発し、その最適利用・最適配分を考える。そして、環境・資源・組織への多面的適合を図る経営戦略を導き出す。企業の競争力を向上させる上で最も重要な条件は、企業家精神発揮の自由度を確保することである。オーストラリアの製造業が世界との大競争に伍して行くためにはミクロ経済改革の推進が欠かせない。港湾・空港・陸海運・電力等の公共サービスの不効率は、結局のところ公益事業として政府が管轄し、規制の網の目を張りめぐらせることによって、企業家精神を萎縮させ、自助努力の芽を摘み、組織の自己革新能力を奪っているところに原因がある。自由と責任のない事業経営からは、改革は生まれない。一層の規制緩和が望まれる。 産業化・国際化・情報化の加速度的進展が、地域・国による技術差・賃金差を加速度的に減少ざている。今後は、ますます経営能力そのものの重要性が高まる。トップ・マネジメントだけではなく、それを頂点とする組織全員の経営能力の開発が問われる。オーストラリアのように小さな市場では、規模の経済を必要とする産業にとっては、リスクが大きい。城内あるいは世界と結んだ購買・生産・販売・物流のネットワークを有効に使う世界戦略がなければ、投資の有効性は確保しがたいであろう。 Nies,ASEAN、さらには中国からの輸入品との競争において、オーストラリア国内だけでの自己完結的な解決は望むべくもない。企業内国際分業による多国間解決が大競争時代の基本戦略としてとらえられることになる。オーストラリアにおけるトヨタしかり、松下パナソニックしかり、YKKしかり、である。しかし、国際分業を機能させるためには個々の事業拠点において、企業として個人として自己責任体制を確立し生産性を高めることが必須なのである。いわゆるグローカリゼーションに懸命な努力を続ける在豪日系製造業の姿に、環境適応にとどまらず社会経済開発の原動力としての企業家精神の旺盛な発露を見出すことができたのは幸いであった。
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