研究概要 |
1 調査の目的 まれまでの予備調査で,中国には,意思決定過程に重要な役割を担って参画している秘書が存在することが分かってきた。それは,日本型の雑務除去秘書でもなく,欧米型の事務代行型でもない,いわば「第三の秘書」ともいえるものである。こうした意思決定参画型秘書の実態を明確にすることを,本調査研究の目的とした。 2 調査の対象エリアと対象組織体 本調査研究では,中国の主要都市の中から,最も改革開放が進んでいる上海市を調査対象エリアとして選定した。上海市で働く秘書たちは,政府各級機関,国内資本企業及び外国資本企業のいずれにかに属しているが,こうした組織体の中でも,外国資本企業の進出が,近年めざましく,国内資本企業よりもはるかに多くの秘書の人材を求めてきた。外国資本企業に働く秘書は,他の組織体の秘書にくらべて,大いに動態的な変化をしており,その変化と発展の成り行きは,中国秘書学界のみならず,日本の秘書学界でも,大いに関心を集めているところであった。そこで,本研究では,調査対象組織体として外国資本企業を選定した。 3 調査の方法 (1)見本抽出法 三段階に分けて見本企業を抽出した。つまり: 〔第一段階〕1996年8月末のデータによると,上海市外国資本企業の内,いわゆる「三資」企業が18,000社余,また上海市に駐在している外商の事務所も4,400社余あり,合計22,400社を超えていた。つまり,三資企業が全体の約80%,事務所が20%を占めていた。そこで,上海市工商行政管理局外資処と上海市対外サービス公司商務連絡部のデータから,如上22,400社の会社明を把握し,これに地区別枠組みを当てて,簡単なランダム・サンプリング法で,10%に相当する2,240社を見本として取り出した。 〔第二段階〕2,240社を,大きく三資企業と外商事務所の二つに分け,抽出の枠組みを作り,それに簡単なランダム・サンプリング法で,三資企業から800社,外商事務所から200社,合計1,000社をとりだして第二段階の見本とした。こうした抽出方法の結果,1,000社の見本企業は,上海市の24の区や県の内,14の区や県に及んでいた。 [第三段階]1,000社に対し,1社ごとに,ランダム・サンプリング法で1名を取り出した。なお,こうした中には,秘書の外に,秘書類似職としての接待員,書記,文秘,文員なども含まれていた。 (2)調査期間 1996年12月1日から1997年1月16日まで。 (3)資料の収集方法とその調整 あらかじめ,専門的な訓練を受けた12名の上海大学文学院秘書学部生を調査員に指名した。調査員は,調査表を持参し,被験者とは面談法によって調査をした。 回収された調査表は,同大学秘書学部の教員が1部ごとに審査をし,一定のプログラムによって,5%の50社に対して,再検査を行ったが,その有効率は100%に達していることが判明した。 (4)調査項目の設定 調査に当たっては,秘書機能を抽出するため,機能分析・組織分析・関係分析を意識して調査項目を策定した。 具体的に調査項目は,次の10章,186問をもって構成した。(1)秘書業務の内容(11問)(2)政治に対する関心(30問),(3)秘書業務の水準(29問),(4)趣味・関心(16問),(5)心身素養(18問),(6)職業を選択する動機(23問),(7)消費意識(14問),(8)結婚に対する意識(31問),(9)価値観(10問),(10)個人及び企業の基礎資料(4問)。 4 調査結果 調査表の解析に,個別性の捨像と普遍性の抽像という求心的な方法を採った結果,「上司を支援する」という秘書機能が抽出された。そして,これまでしばしば不可解とされてきた中国の意思決定過程に,秘書が深く係わっていることが明らかになった。具体的には,秘書が,上司のために,上司の本務である意思決定の判断材料になる情報を,収集・作成・加工・蓄積・検索・提供するという形で支援,意思決定に参画するものであった。 なお,今後の研究課題は,研究費の関係で出来なかった政府各級機関に働く行政秘書の実態調査を実施し,本研究成果との比較研究することである。
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