研究概要 |
本研究では、人の言語の起源の一端を霊長類社会の音声コミュニケーションに求め,新世界ザルのリスザル社会における音声交換行動についての調査を行った。リスザルを被験体として選んだのは、本来の生息地である深い熱帯林で彼らは音声チャンネルを主たるコミュニケーションとし、他の霊長類で一般的な接触的コミュニケーションが僅少だからである。新世界ザルとしては大型の群れ社会を形成し、発声行動が頻繁な点も研究目的にふさわしいと思われた。調査は静岡県伊豆シャボテン公園で放し飼いにされているボリビアリスザルの群れを対象とした。成体雌15頭を個体追跡法によって行動観察し、近接関係と(典型的なコンタクトコールである)チャック音の発声頻度を測定した。その結果、ボリビアリスザル社会は血縁関係にあると思われる雌たちのサブグループに分節化しており、音声交換はそのサブグループ内で活発に交わされていた。各サブグループには、高頻度で発声する個体がおり、それらの個体はとくに採食場面でチャック音の音声交換をリ-ドする傾向が認められた。そのような個体が、サブグループ間の社会交渉でも中心的な役割を果たしているのではないかと予想し、プレイバック実験によって仮説の検証を試みた。その結果、高頻度発声個体が発するチャック音に対しては、すべての個体がよく応答するのに対し、低頻度発声個体が発する音声に対しては、高頻度発声個体のみがよく応答した。音響学的分析によって、チャック音のピッチには個体変異が認められることから、彼らは音声による個体識別ができ、とくに高頻度個体を核として音声交換を行っていることが示唆された。
|