本年度は、ヒトを対象として、視覚的共同注意の影響や視線探知器(Eye Direction Detecor:EDD)の検討、そしてチンパンジーを対象として、指さしと関連があると考えられる物のつかみ方(以下pincer gripとする)の発達についての検討を行った。 まず、乳幼児を対象とした刺激注視場面で、母親の指さしや声かけによるある特定の刺激に対する注意の喚起と、刺激自体の物理的変化による注意の喚起との比較を試みた。注意の喚起という機能的な作用は同じであるが、後続して同一の刺激事象に対した場合、母親の注意の喚起の方が、物理的な変化による注意の喚起の場合よりも、より乳幼児の注視行動に影響を与えることがわかった。こうした方法で、視覚的共同注意の質的側面に踏み込めるこもしれないことが示唆された。 われわれは、目や目様の刺激に対して特に高い感受性(EDD)を有しているとされ、それは進化論的な産物であるとされる。habituation/dishabituation法を用いて、乳幼児のEDDを検討した。顔の線画や顔写真の各パ-ツ(目、鼻、口)をひとつずつ変化させた刺激では、目を変化させたものに対して、もっとも長い注視時間の増加が見られた。これはEDDの機能的な存在をうかがわせる結果である。 また、チンパンジーを対象としてpincer gripの発達の実験的分析を行った。3種類の大きさのリンゴ片をチンパンジーに呈示し、そのつまみ方を詳細に分析した。その結果、従来まではチンパンジーには見られないとされていたpincer gripがチンパンジーにもみられたこと、しかしながら、その頻度は若い個体ではきわめて少なく、ある程度の成熟(今回は8歳以上)がなければ出現しないことがわかった。ヒト乳児のデータと比較すると、チンパンジーでは発達のスパンがかなり遅いことわかった。
|