国際私法の分野においては、外国法の適用をめぐる問題につき、主としてフランス法を素材にしておこなった研究を基に、日本法・アメリカ法・ドイツ法等における議論をも参照しつつ、検討した。検討の対象は、民事事件が裁判所に現れたときに、その自験に抵触法が適用され、その結果として外国法が適用されるというメカニズムにおいて、裁判所と当事者のそれぞれにどのような役割を割り当てるかという問題である。より具体的には、(1)渉外性を示す事実の意見・提示について裁判所はどの程度の義務(および権限)を有するか、(2)当事者が抵触法の適用(ひいては外国準拠法の適用)を主張しないときに裁判所は抵触法を適用する義務(および権限)を有するか、(3)当事者に外国法の内容を証明する義務を負わせるか、(4)事実審裁判所が外国法の内容を誤って適用したことが最高裁判所への上告理由になるか、等である。このような外国法適用の手続的な問題は、渉外民事事件を解決するための法律エキストシステムを構築する際の重要なポイントである。たしかに、エキスパートシステムの守備範囲や機能を限定して、手続き的な観点を捨像し、より実体的な準拠法決定ルールのみに着目して国際私法のエキスパートシステムを構築するというのも一つの方法であるが、やはり、そのようないわばスタティックなシステムよりも、現実の裁判過程に近いダイナミックなシステムの方がエキスパートシステムの性質(プロセスの重視等)により適合的である。契約法の分野では、ウィーン統一売買法について、条約1条および6条を中心に「適用」の部分に関する検討をおこなった。とりわけ、条約第6条の定める、当事者による条約適用の排除は、上記の外国法の適用というテーマと密接に関連する興味深い問題-すなわち、渉外的な事案において、法の適用についてどのような当事者自治が認められるかという問題-を提供する。
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