この1年間の研究を通しては西側のリベラル・デモクラシーのモデルに対する疑念が強く見られたロシアの政治変動とイデオロギー状況を『ソヴィエツカヤ・ロシア』、『ザ-フトラ』、『わが同時代人』など反エリツィン陣営のナショナリズムに依拠する新聞、雑誌の論調を分析することを通して明らかにすることに努めた。 歴史にも西欧派の議論に対するアンチテ-ゼとしてのロシア的独自性、民族性・国家的誇りの議論はよく紹介されるが、同じ反西欧でも例えばチェチェン問題に見られるようにイスラムという全く異質な原理に直面し、それによる攻撃にさらされた時、ナショナリストのなかでどのような対応が見られたのかについてロシア文化や正教理念に根差した「小さなロシア」を唱導するソルジェニツィンに対して「ロシアの大国性」の宿命的性格を強調するミハイル・ナザ-ロフの議論を検討しつつ、明らかにした。そして今日「ロシアの大国性」を体系化するイデオロギーとしてユーラシア主義が再浮上していることを論じた。 今日のロシアの政界においてユーラシア主義を唱導しているのはロシア連邦共産党の指導者ジュガ-ノフである。1996年の大統領選挙に望んだジュガ-ノフがいかなる形で「ロシアの大国性」の確立を展望したのかをこの研究のなかで明らかにしたが、それを通してロシア連邦共産党のイデオロギーがマルクス・レ-ニン主義、労働者の階級的原理に依拠するソ連共産党とは異質な構造を持っていることを論証した。総じてこの1年間の研究では、ロシア・ナショナリズム、ロシア国権議論についての展開を伝統的なロシアの政治文化の再確認という形でのみ位置づけるのではなく、議会政治の一応の定着、市場経済のなかでの新しいエリートの登場という環境のなかで、その論理構造にどのような新しい展開が見られるのかについて注目した。
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