研究概要 |
今年度は,絵画の構成色が色空間上でなす色分布-絵画に含まれる色とそれが画面に占める面積の割合-について,つぎの2種類の分析を試みた. ひとつの試みは,色分布の形状を単純な統計量で分類し,それと絵画の色彩的特徴との対応を調べたことである.色分布を代表する統計量として分布の平均および分散共分散をとり,これから作られる偏差楕円体により色分布の形状の分類を行なった.その結果,これらの統計量と絵の色彩的特徴がよく対応することが認められた.画家は,色使いによって“明暗画家"か“色彩画家(カラリスト)"かのように分類されることもある.われわれの分析結果は,またこのような分類ともよく対応することが示された.この成果は「明暗か色彩かによる絵画の特徴づけ」および「色分布の客観的形状分析による絵画の特徴抽出」という題目で口頭発表を行ない,「絵画の色彩分析の試み-色分布の形状に着目して-」という題目の論文にまとめた. もうひとつの試みは,色分布間の距離を与えて,似ている色分布の抽出分類を行なったことである.単純に色空間を同じ大きさの立方体に分割して,それぞれに含まれる色の面積の和を成分とするベクトルの距離を採用する方法は,結果が立方体の一辺に大きく左右され,安定した分析に向かない.そこで,色分布に含まれる色がガウス関数で与えられるばらつきをもっていると仮定して色分布を連続化し,それをふたたび立方体によって離散化しベクトルを生成することで,立方体の一辺に依存しにくい距離を定義し,これをもちいて分析を行った.距離の遠近を灰色の濃さで表した距離マトリックスやクラスタ分析によって,色使いの安定した作品群の抽出や,妥当な分類を与えるクラスタを求めることができ,色彩的特徴の分析手法として有効であることが確かめられた.この成果は「Quantitative Analysis of Color Features in Paintings」という題目で平成9年5月に京都で開かれる第8回国際色彩学会大会(AIC Color 97 Kyoto)において発表する予定である. また,平成8年12月に色彩・デザインの専門家を交えての研究会を実施し,研究の方向づけに関して有意義な議論を進めることができた.なお,これまでの研究の総括を「絵画の色彩的特徴に関する数量的分析(2)-色分布の形状および色分布間の距離による分析-」という題目で発表を行った.
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