研究概要 |
本研究は,三年計画で,近現代中国における企業家精神と経営体質の有り様を検討しながら,一世紀半に及ぶ中国経済の変動過程とそこでの問題点を解明することを目的としている。 清朝末期の洋務運動から,最近の「改革・開放」を旗印とした社会主義市場経済に至る中国近現代の工業化過程は,巨視的にみれば,次の五つの時期に区分できると思われる。すなわち,(1)清末期(1860-1911年)・(2)北洋政府期(1912-1927年)・(3)国民政府期(1928-1949年)・(4)現代中国前半の社会主義計画経済期(1949-79年)・(5)現代中国後半の改革・開放期(1979-97年)の5期である。 初年度に当たる平成8年度には,研究の重点を,伝統農業社会から近代産業社会を目指した(1)清末期と(2)北洋政府期におき,それら2期において展開された企業家精神の代表例として江蘇省南通で活躍した張謇兄弟の例を取り上げ,彼ら兄弟が共同して設立・経営した大生紗廠(綿紡績)・通海墾牧公司(開墾植綿)を具体的に解明・検討した。その成果は単著『張謇と中国近代企業』として刊行された。その研究では単に清末民国初の張謇兄弟のみならず,民国期の代表的な企業家・栄宗敬兄弟との比較研究も試みられ,同時に洋務運動期の「官僚企業家」「買辧企業家」から,日清戦争後の「紳商企業家」へ,そして辛亥革命後の「商人企業家」へという主導的な企業家類型の推移についても言及されている。また清末期の「合股」的経営体質が,本質的に改められることなしに民国期に継続されていた点も論及されている。このような蓄積に立って,次年度以降にはさらに時代を順次下げて,民国期と現代の社会主義段階における企業者史・経営史研究を推進していく予定である。
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