『国民政府行政院公報』(1928〜1945年)全44冊、『中国国民党中央党務公報』などを購入して、その分析を行った。作業はなお継続中である。 中国ではデスポティズム国家の存在にもかかわらず、伝統的に国家=中央と社会=地方との乖離が著しかったが、近代に入ってもそれは変わらなかった。蒋介石の南京国民政府はこうした国家と社会のあり方を是正して名実ともに中央集権国家を形成しようとした最初の国家であった。 以上のような仮説に基づいて、まず、国民党と国民政府の関係を1927年以降の時期を中心に考察した。国民政府の国家統合・社会統合には二つの柱があった。一つには国民党を通じた社会把握・統制であり、もう一つは国民政府が商会・工会・教育会などの職能団体を統制・支配することであった。これらの仕事を党組織や政府官僚組織のみの力で行っていくのには、力量不足であった。そこで、蒋介石政権は国家と社会を結合させる紐帯として青幇などの旧勢力を利用した。青幇のなかでも杜月笙はいち早くそうした使命を敏感につかんで、時代に適合して青幇組織の変容を図り、積極的に権力機構のなかに入っていって、国家と社会の中国的結合に役割を果たした。そこに中国的近代の特徴があったと考える。これについては「青幇にあらわれた中国的近代」と題して、重点領域研究「中国の構造変動」A05班の第七回研究会で報告し、近く発刊される『上海人物誌』(東方書店に掲載される予定である。 国民党と南京政府の関係については、一九九七年にまとめる予定である。
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