平成8年度においては、(1)完備リーマン多様体の場合の熱核、グリーン核の評価に関する様々な結果のグラフ版を考察した。そこで、無限グラフの離散ラブラス作用素のスペクトル、熱核、及びグリーン核を調べ、斉次等質樹木の場合にベストになるような一般的な評価を得た。更に、グラフの熱核比較定理、グリーン核比較定理の応用として、種々の無限グラフのグリーン核を決定した。 (2)ユークリッド空間の領域の場合のディリクレ境界値固有値問題の場合に成り立つ有名なファーベル・クラーンの定理の離散版を考察した。境界を持った有限グラフについて、その離散ラブラス作用素に関するディリクレ境界値問題の第1固有値を考えるとき、辺の個数が一定という条件の下で、第1固有値が、最小となるものは、凧型グラフの場合に限るという、ファーベル・クラーン型の定理を得た。 (3)確率微分方程式の解の安定性からリー群の第2基本群が消えるかという「エルウォーシ-・ローゼンバーグの問題」について、対称空間の場合の断面曲率評価定理とラプラス作用素の第1固有値ビンチング定理を得た。それらを使って、コンパクト・リー群のなかで彼らの主張する不等式を満たすものは、2次特殊直交群のみであることを示し、彼らの提示した問題を否定的に解決した。 (4)複素関数論において強擬凸領域の境界として現われるコンパクト強擬凸多様体 M 上のヤング・ミルズ接続のモデュライ空間を決定し、その応用として、正則ベクトル束の変形の空間の構造を詳細に調べることができた。特に、Mがケーラー多様体 N 上のサークル束の場合には、下のケーラー多様体 N 上のヤング・ミルズ接続のモデュライ空間との完全な対応関係を得ることができた。又、たくさんの例についてモデュライ空間を決定した。正則ベクトル束の変形の空間の構造の決定に関連し、未解決問題も提示した。 (5)四元数対称空間上の等質ベクトル束上の等質ヤング・ミルズ接続がいつ自己双対となるかホロノミー表現を用い群論的手法により決定した。これは、4次元の伊藤光弘の等質ヤング・ミルズ接続に関する定理の高次元四元数対称空間への拡張である。
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