研究概要 |
磁性金属イオンをテンプレートに用いた錯形成により,有機フリーラジカルのスピンを効率的に集積・組織化し,磁石を得る設計戦略を光化学反応と組み合わせ,ヘテロ超高スピン系の構築を行った.本年度は,二価の配位能をもつジ(4-ピリジル)ジアゾメタンを配位不飽和なビス(ヘキサフロロアセチルアセトナト)銅(II)と反応させ,1:1錯体を橙色結晶として得た.単結晶のX線結晶構造解析により,Cu(II)に対してピリジンはtrans配位し,期待された通りの1次元鎖状構造を形成していることが確認された.この試料について,紫外光照射前後の磁化率X_<mol>を光照射プローブを付けたSQUID磁化率測定装置を用い,2-300Kの温度および0-1Tの磁場強度範囲で測定した.照射前には,X_<mol>T値は温度に依存せず一定であり,Cu(II)に由来するS=1/2の常磁性を示した,光を照射し再びX_<mol>Tの温度依存を調べると,X_<mol>T値は温度低下とともに増大し,極小を示すことなく増大を続け,Cu(II)のdスピン(S=1/2)のカルベンのpスピン(S=1)の強磁性的相互作用が起こり,3Kでは相関距離が23構造単位にも伸び,超高スピン鎖(S=34.5)となっていることが明らかとなった.これら結晶の中では,化学量論的に生成しているカルベンが,240Kまで安定であった.錯体構造を2次元,3次元と高める設計を行うことにより,高い磁気相転移温度をもつ錯体が合成され,新規光磁気記録素子の開発を可能とするものと期待される。
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