研究概要 |
励起状態における分子間および分子内相互作用によって生成する励起錯体の化学的特性を明らかにし、新しい高選択的光化学反応を開発することを目的として研究を行い、以下の知見を得た。 1.分子内にナフタレン環と置換アルケンをもつ化合物を合成し、その光化学的挙動を検討した。1-シアノナフタレンとアルキル置換アルケンとをエーテル結合で連結した化合物では、分子内エキシプレックスを経由して(2π+2π)分子内光環化付加反応が進行するが,その効率ならびに位置選択性は溶媒の極性ならびにアルキル基の数に依存することを明らかにした。すなわち,トリおよびテトラアルキル置換アルケンでは,ベンゼンまたはアセトニトリルいずれの溶媒中でも1-シアノナフタレンの1,2-位への付加が優先的に起こるが,モノアルキル置換アルケンでは,アセトニトリル中でのみ3,4-位への環化付加が進行した.また,ジアルキル置換アルケンでは,アルキル基の置換位置によって反応性が異なり,1,2-位への付加は溶媒効果をほとんど受けないが,3,4-位への付加は顕著な溶媒効果を受けることがわかった. 2.1-メトキシカルボニルナフタレンとアルキル置換アルケンとを連結した化合物の光反応では,ナフタレン環への(2π+2π)分子内光環化付加体の生成とエステルの水素引き抜きに由来する8員環ケトンの生成が競争的に進行した.後者の水素引き抜き反応の同位体効果はk_H/k_D=2.4であった.また,アルケンのかわりに2-メチルフェノキシ基をもつ化合物の光反応では,水素引き抜きに由来する8員環化合物は生成せず,C-O結合の開裂に由来する転位生成物を与えた.
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