研究概要 |
メタラジチオレン錯体のS,S'-ジアルキル誘導体は、光照射で1個のアルキルラジカルと金属錯体ラジカルとに解離する。この金属錯体ラジカルは、ベンゼン溶液中、室温で、10分以上の異常に長い寿命を持ちながら、さらに二次的に、もう1個のアルキルラジカルを放出して、安定な遊離のジチオレン錯体を生成する非常に興味深い化学種である。機能性の観点から、光、磁気の両機能を制御できる有望な機能物質系である。 本年度は、立体規制の観点から、架橋型のS,S'-ジアルキル誘導体の挙動の特質(金属錯体ラジカル生成効率とラジカルの挙動)を、架橋部位の構造との関連で研究した。最もユニークな挙動が観測されたのブタンジイル架橋誘導体である。ここでは、遊離錯体の生成に、2種類の長寿命活性種(寿命300sのビラジカルおよび1000sのラジカル)が関与している。後者はESR活性であり、S,S'-ジブチル誘導体から発生するラジカルと挙動が一致することから同定できる。架橋部位から不安定なo-キノジメタンが生成するo-キシリル誘導体は解離の光化学的効率が低く、また、金属錯体ラジカルのESRシグナル強度が小さい。 我々は先に、共役金属キレート環のラジカル置換反応の最初の例をメタラジチオレン環について報告した。共役金属キレート環の求電子置換はいくつかの金属錯体において報告されていたが、ラジカル置換反応については、これまで全く報告がなく、我々の発見は、有機化学と無機化学との接点において新しい領域を拓くものと考えている。上の知見を基に、光化学的に発生したラジカルをメタラジチオレン環の置換に応用した。S,S'-ジベンジル誘導体と環にHをもつジチオレンの混合物に光照射すると、ベンジル基がSからCへと分子間で移動する。
|