研究概要 |
時間文解マイクロ波誘電吸収法を用いた実験により、非極性溶媒(ベンゼン)中における芳香族アミン-四塩化炭素系の光励起による接触イオン対生成の反応機構を検討した。また、励起カルボニル-アミン系、およびラジカル種からのイオン対生成の可能性についても調べた。 (1)芳香族アミン-四塩化炭素系では、接触イオン対生成が励起三重項状態アミンからの四塩化炭素への電子移動と基底状態錯体の励起の両方から起こる場合(N,N,N′,N′-テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD)、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、N,N,-ジエチルパラフェニレンジアミン、トリフェニルアミン、p-フェニレンジアミン、p-アニシジン)と、基底状態錯体の励起のみから起こる場合(パラ置換以外のフェニレンジアミン類とo-,m-アニシジン、およびo-,m-,p-トルイジン)とに別れることが明らかとなった。イオン化電位が比較的高いフェニレンジアミンおよびアニシジンにおいて、パラ位置換体のみが励起三重項経由の接触イオン対生成を示すことは、そのイオン構造が低エネルギーイオン化の重要な因子になっている可能性がある。 (2)励起三重項ベンゾフェノンは、トリエチルアミン(TEA)との反応でベンゾフェノンケチルラジカルを生成するが、TMPDとの反応ではマイクロ秒程度の寿命を持つ接触イオン対を生成することが初めて示された。一方、アニリンおよびテトラメチルベンジジンではイオン対生成が起こらずケチルラジカル生成のみが観測されたが、パラフェニレンジアミンではイオン対生成が認められ、上記ジアミン-四塩化炭素系での低エネルギーイオン化の傾向と符合している。励起三重項ベンジルはTEAとの反応でも接触イオン対を生成し、その後ケチルラジカル生成に導くこともわかった。一方、ベンジル-TMPD系においては、かなり小さい振幅ではあるが非常に速い接触イオン対生成が起こるようである。 (3)アゾジベンゾイルの光励起で生じるベンゾイルラジカルは、TMPDの存在下およびさらに酸素存在下で、前者ではベンゾイルラジカルが、また後者ではパーオキシベンゾイルラジカルが、それぞれTMPDから電子を奪って接触イオン対を生成していると考えられる。ベンゾイルラジカル、パーオキシベンゾイルラジカル、接触イオン対の双極子モーメントは、それぞれ2.6,4.3,9.6Dと求められた。
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