拡散律速反応の速度論と微視的な液体構造の関連を理解する上で重要である以下の二点について研究した。 まず、剛体球系における拡散律速反応の計算機実験を行い、反応速度を理論値と比較した。理論は、昨年来筆者が取り組んでいる摩擦の記憶効果を考慮したものである。この効果は、液体に微視的な構造性がありケージ効果等があるために生じるものである。流体の密度が低く気体に近い状態では記憶効果は重要ではないが、液体に相当する密度では記憶効果がサブピコ秒程度の短時間における反応速度に無視できない影響を与えることが判った。また、筆者の導いた理論は計算機実験の結果をほぼ完璧に再現することも示すことができた。さらに、流体の密度に関わらず、分子運動に対する慣性効果が反応速度に大きな影響を与えることを明らかにすることができた。今後さらに、液体構造によって生じる平均力のポテンシャルの効果を研究していく必要がある。 次に、分子運動と液体の微視的構造との関連を明らかにするために、NMRを用いて電解質DMSO溶液中の溶質近傍における溶媒分子の回転運動について考察した。水溶液の場合と異なり、測定した全ての溶質で温度に関わらず溶質近傍の溶媒分子の回転相関時間はバルクに比べて長くなることが判った。これは、DMSOが水に比べて液体の構造性が低く、イオンが溶けた場合の構造破壊効果もまた小さいことを示している。
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