研究概要 |
本研究の目的は,有限周期の光の波長と同程度の散乱体の配列が,輻射場の人工的に制御する効果を持つことを検証するために,人工配列を製作し,その光学特性を系統的に調べることであった. 散乱体には直径2μm,屈折率1.58のラテックス球を用い,これを電子顕微鏡試料室に取り付けたナノマニピュレータをジョイスティックで操作して配列した.具体的な配列方法としては,実現できる配列の精度,測定結果の解析の容易さ,対応する計算結果の信頼性から,最密充填2次元三角格子を選んだ. まず,三角格子配列の周期数が異なるいくつかのサンプルを製作し,その前方散乱スペクトルを測定した.その結果,周期数が増えると急激に特定の波長での強度が増大することがわかった.周期数1の結果は単一微小球の前方ミ-散乱スペクトルを表している.周期数2でもスペクトルはほとんど変化しなかった.しかし,周期数4から6程度になると,スペクトルにはいくつかの鋭いピークが現れた.このことは6周期程度の構造物で大きな多重散乱効果が得られることを示している.次に入射角度を系統的に変化させてスペクトルの挙動を調べた.垂直入射では3つの鋭い谷が観察され,これは大高の球面波展開法によるフォトニックバンド計算の結果とほぼ一致した.しかし1本の位置は計算とは一致せず,これは有限系と無限系の違いによるものと思われる.角度を変化させると,これらの構造はシフトしたりスプリットした.また,垂直入射では偏光依存性がなかったが,角度変化とともに次第に縮退がとける様子が観察された. これらの結果は光波帯での3次元フォトニックバンド理論を直接的に検証した初めての実験データであり,現実的な有限周期系でもフォトニックバンドギャップなどの輻射場の制御効果が期待できることを示唆している.
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